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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 ギィィィ…


 シーツお化けの手が大きなドアを開いて

俺を中へと促す。

 ものすごく入りたくはなかったけれど、

促されてしまっては入らざる得ない。

 ゴクリと喉を鳴らして、おそるおそる足

を踏み入れる。

 玄関を入ってすぐのところは広い空間に

なっていて、踊り場を挟んで二階へ続く階

段が左右に分かれて伸びている。

 かつてはさぞや豪華な暮らしをしていた

人が住んでいたのだろうというのは想像に

難くないが、打ち捨てられて久しいであろ

う洋館は内側まですっかり汚れ寂れていた。


 …パタン


 ボーっとしていたら背中でカイルが重い

扉を閉めた。

 まるで囚人のような気分にさせるその音

が響いたのとほぼ同時に、館の壁にいくつ

も飾られていたのだろう燭台に火が灯る。

 ランタンの心許ない灯りがなくとも歩け

る程度のは光源が確保されてとりあえずは

ホッとするけれど、その燭台の周辺にも蜘

蛛の巣が見えたり埃が積もっているのがわ

かってしまう。

 ここを生きて無事に出られるだろうか…。

 どうしようもなく掻き立てられる不安に

押し潰されそうになっていると、後ろにい

たカイルが横をすり抜けて前に出た。


「えぇ!?」

「何を驚いている。

 さっさと来い、ノロマ」


 いつもの冷たい目で一瞥してくるカイル

はもうシーツを被ってはいなかった。

 その代わりにその左頬には黒い十字架の

タトゥーが彫り込まれていたし、ゴシック

調のタキシードに身を包んでいた。

 いつシーツをとったんだとシーツを探し

たけれど、ない。

 あんなに大きなもの、どこにも隠せる場

所はないのに。

 さっさと歩き出すカイルに送れないよう

についていくと、長いテーブルのあるダイ

ニングに通されたようだ。

 すでに室内には先客がいて、いずれも見

知った人たちがそれぞれの立ち位置でワイ

ンやケーキを楽しんでいる。

 破れたカーテンが揺れる窓際で犬歯を覗

かせワイングラスを傾けているタキシード

姿の兄貴。

 顔より大きい黒い山羊の角をつけて裸の

上半身を晒しているクロードは蜘蛛の巣だ

らけの料理が並ぶ長テーブルの奥、主人が

座るであろうところでグラスに赤いワイン

を注いでいる。

 とんがり帽子に箒を持った出で立ちの大

倉先輩は、体長20センチほどまで縮み羽

根を生やした片岡先輩を入れた鳥かごを揺

らしてご満悦らしい。

 童話に出てくる木こりの恰好をした誠一

郎は色とりどりの試験管を指の間に挟んで

いるクロームの眼帯をつけた白衣姿の樹と

談笑している。

 なによりさっき墓場においてきたはずの

清水と牧村が当たり前みたいな顔でケーキ

を食べていて頭痛がしてきた。

 俺が走って追いついたくらいなのに、ど

うして二人がその俺より先にこの部屋にい

たであろう姿でいるのか。

 全てがおかしすぎてもうどこをどう直せ

ばいいのかすらわからない。

 カイルはカイルで俺をここに案内したら

役目は終わったとばかりに傍を離れて寛ぎ

始める。

 まともな人間がいるようでいないような

空間と誰一人いない深い森の中なら前者の

方がマシなんだろうが…いや、本当にマシ

なんだろうか?





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