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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 今まで兄貴に理不尽にいろんなものを奪

われてきたと思っていたけど、この言葉で

全部許せるような気がした。

 むしろ返しきれない気持ちの分、これか

ら返していけるかとも思うし、返していき

たいと思う。


「綺麗だ…」


 何かを奪っていく鋭さも繋ぎ止めようと

する激しさもない兄貴の目は静かに澄んで

いて、無意識に言葉が零れた。

 兄貴は一瞬だけ驚いたように俺を見下ろ

して、ふっと微笑んだ。

 瞬きをすれば見逃してしまうほど僅かな

間だけ。


「気はすみましたか?」

「うん…。

 でもたまには言って欲しい、不安になる

 から」

「僕に要求する前にまず自分のことからけ

 じめをつけるんですね」


 まだ幸せの余韻に浸っていたかったのに

兄貴はいつもの調子で返事をよこす。

 だけどさっきと同じ言葉を聞いても腹は

立たなかった。

 感情のない人間なんてやっぱりいないん

だ。

 どんなに無表情な人にも心はあって気持

ちは動く。

 兄貴がこんな深い気持ちを抱えたまま冷

めた表情の下で傷ついているとわかったか

ら、もう兄貴を不安になんてさせたくない

と思う。

 その為にけじめをつけなきゃならない。


「わかってる。ちゃんとするから」

「その言葉が口先だけでないことを祈りま

 すよ」


 兄貴は相変わらずの減らず口だけど、今

は気にならない。

 それどころか優しい気持ちが溢れてき

て、どうしようもなく兄貴が愛しくなっ

た。


「好きだ。本当に好き…」


 好きなんて一言だけでは足りない気持ち

を持て余しながら兄貴の首に腕を回す。

 どうしたらこの溢れ出す気持ちを伝えら

れるのかわからない。

 それが歯がゆくもあるし、もう言葉に拘

るのも煩わしくて触れ合っていたいとも思

う。


「僕もですよ、駆。

 でもきっと好きという言葉だけでは足り

 ないですね、僕の気持ちは」


 満足げに微笑む兄貴の顔がキスで見えな

くなる。

 どちらともなく触れた唇はひどく甘くて

とろけそうで、吐息を吐く合間も惜しくて

角度を変えて何度も触れあい、吸い合って

兄貴との距離をさらに縮めていく。

 いつもなら拒む舌先も、今は俺のほうが

欲しくなって兄貴の口内に舌を差し入れた

らたっぷりと唾液に濡れた舌で絡め取られ

た。





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あきゅろす。
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