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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 兄貴の唇が動くのをドキドキしながら待

っていたら、するりと兄貴の片手が俺の頬

を撫でた。


「まったく…きっと駆の事だからきっとま

 た他愛もないことを気に病んでいるんで

 しょうが」


 うっ…兄貴にとってはそうかもしれない

けど、俺にとっては一大事なのに…!

 好きになった人の気持ちを知りたいって

そんなに些細な事なのか…?


 幼い頃からずっとそうだ。

 兄貴にとって俺が悩んでいることなんて

鼻で笑い飛ばしてしまうくらい些細な事、

らしい。

 でもどんなに兄貴がくだらないと呆れて

もそれが俺にとっては一大事なのだ。

 しかし今そこをつつくと余計な方向に話

が反れてしまいそうで、ぐっと言いたいこ

とを呑み込む。


「AVはただのきっかけです。

 でもあの一件がなければ駆が僕を兄以外

 の存在として認識することはなかったか

 もしれないと思うと、今ではよかったと

 すら思えます」

「ぁっ、待っ…」


 兄貴の笑みが鼻先の触れ合いそうな距離

にある。

 脈打つ鼓動が耳を赤く染めたくらいでは

足りない程に熱を帯びていくのに不意に胸

の突起を指先で弄られて大切な言葉も快楽

で押し流されてしまいそうで、ちゃんと聞

きたいからと自分の手を重ねて動きを制し

た。


「きっと駆はもう覚えていないでしょう。

 どれだけ些細な言葉で僕の心に入り込ん

 だのか。

 でも僕はいつまで経っても駆にとっては

 兄で、どれだけ望んでもそれ以上はない

 のだと…諦めるしかないのだと、思って

 いました」


 兄貴の吐息が肌を撫でる度にゾクゾクと

甘美な震えが背中を走る。

 それを吐き出す吐息で誤魔化しながら、

僅かな変化も逃すまいと兄貴の目をじっと

見つめた。

 いつもは肉食獣を思わせるその目の奥に

俺の知らない光が揺れている。

 それの正体を知りたいと思った。


「諦めるしかないとわかっていて、それで

 も駆を抱いてしまった。

 そう願う瞬間は確かにあったのに、駆の

 中で築いてきた兄としての僕もこの手で 

 壊してしまったのだと実感したときの恐

 怖は…もう思い出したくもありません。

 だから僕は駆を抱き続けるしかありませ

 んでした。

 たとえ嫌だと泣いても、僕の体質ゆえに

 快楽に呑まれているだけだと知ってもな

 お、それすら逆手にとってしまいたかっ

 た」


 ほんの一瞬だけ不安や自虐の影がその目

を曇らせたけど、それはむしろ兄貴の…い

つもどこか冷めていた兄貴の人間らしい一

面を垣間見ただけのような気がした。


「駆にとって兄でいられなくなったのなら

 兄以外の者になりたかった。

 快楽漬けにして離れられなくするのでも

 恐怖で飼い慣らすのでもいい。

 駆の傍に居られる誰かに。

 でもどこかで諦めていると思っていた気

 持ちを受け止めてほしいと願っていたの

 かもしれません」


 兄貴は今まで見てきたどの表情とも違う

顔をしていた。

 静かで、穏やかな目に映るのは本当に俺

なのか。

 気持ちが高鳴りすぎてふわふわした心地

にすらなって、これはもしかして夢じゃな

いかと不安になった。

 でも伸ばした手で兄貴の頬に触れてその

体温を感じたら一気に現実に戻ってきた気

がして、あぁ負けたなって思った。

 好きって気持ちに勝った負けたなんてお

かしいと思う。

 でも兄貴が俺を好きでいてくれた時間の

長さも、俺を好きでいていてくれた気持ち

の深さも、だからこそ苦しんでくれたこと

も全部…それ全部に比べたら俺の好きって

いう気持ちはまだまだ足りないかもしれな

い。





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