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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 でもビターも何も食べてくれなきゃ味な

んてわからないんだけどさ…。


 作りながらすでに不安になり始めたのは

秘密だ。

 もしこれが燃える日に出されたら…と思

うとやっぱりちょっと…いや、ものすごく

凹むだろうけど。

 でも今更ぐるぐると考えたところで用意

してしまったものは用意してしまったんだ

し、たとえ食べてくれなくても気持ちだけ

は贈ったんだと納得するしかなかった。





 パタン…。

 隣の部屋のドアが静かに閉まった。

 兄貴が風呂から上がって自室に戻ったら

しい。

 俺は目の前のチョコレートをもう一度見

てゴクリと唾を呑み込む。

 一口サイズのチョコが6つ、ラッピング

してあるだけのものだ。

 ピンクとかハート柄とかは無理だと、一

番シンプルな透明なラッピング素材を選ん

だだけあって中に何が入っているのかは包

装を解かなくても分かる。

 パッと見て顔をしかめられるだろうとわ

かってはいても傷つく覚悟は必要だ。

 なにせ相手はあの兄貴だから。

 しかしいつまでもチョコレートとにらめ

っこしていても仕方がないと立ち上がって

兄貴の部屋の前に向かう。


 …コンコン


 控えめなノック音より心臓の音がうるさ

い。

 鎮まれと念じる間もなくドアの向こうか

ら兄貴の声がした。

 緊張で汗ばむ手でドアノブを回して顔だ

けのぞかせる。


「あの…ちょっといい?」

「何ですか?」


 湯上りの兄貴はパジャマ姿で、読みかけ

の本を閉じてこちらを振り返る。

 背中のドアをそっと締めて部屋に入る

と、兄貴が次の言葉を待っていた。


「あの、さ。今日バレンタインだよな?」

「それが何か?」


 兄貴に歩み寄りながらもやっぱり不安で

チョコレートは背中に隠したままだ。


「あぁ、そういえばいつものゴミの山があ

 りませんね。

 捨ててくれたんですか?

 手間が省けてありがたいですよ」


 “ゴミの山”とは紙袋に入ったチョコの

山のことだろうか。

 しかも俺の様子がいつもと違うのを何か

別のことと勘違いしているみたいだ。


「…それはリビング」


 兄貴の部屋まで運んでこなかったのは不

親切だからじゃない。

 俺から兄貴に他人からもらったチョコレ

ートを渡すなんて嫌だ。

 今年は受け取らないと断ったのに贈り主

から押し付けられたチョコレート達だ。

 どうせ捨てられるんだから、とは思わな

いけど…空気を察して欲しい。





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あきゅろす。
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