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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*



「僕、型の用意するね」

「うん、よろしく」


 俺がメレンゲを混ぜている間に麗はケー

キの型にオーブンシートを切って敷き詰め

ていく。

 ふわっと混ぜ終わった生地をケーキの型

に流しいれ、トントンと叩いて空気を抜い

てから天板にのせ、170度に温めておい

たオーブンで40分焼いたら出来上がり

だ。


「ふぅ…」


 毎年のこととはいえ今年のケーキも順調

に焼けそうだな、と肩を下ろして一息つく

と麗がチラっと顔を覗き込んできた。


「お兄ちゃん、クリームついてるよ?」

「え?」


 いつの間に…と驚いている隙にペロッと

やられた。

 ビックリして固まる俺に麗はニコニコ笑

いながら告げる。


「うん、ケーキ焼けたら美味しいと思う」


 さりげなく舐められたんだと理解した瞬

間に、帰ってきたらしい兄貴がキッチンの

前を通りかかった。

 タイミングが悪いことこの上ない。

 ゲッと顔を引きつらせると兄貴とバッチ

リ目が合ってしまって喉の奥がヒクリと鳴

る。

 別にやましいことをしてた訳じゃないし

俺のせいでもないと思うけど、一瞥しただ

けで二階に上がっていく兄貴の姿は堪える

ものがあった。


 べ、別に変な事してないし!

 後から誤解解けばいいだけだし…っ。


「お兄ちゃん?どうしたの?」

「な、なんでもない!

 さっさと片付けちゃおう」





 バレンタインの日だけは兄貴がキッチン

に寄りつかない。

 もともと甘いものは苦手だけどバレンタ

インばかりはチョコレートの顔も見たくな

いという顔をして、焼き上がったケーキも

申し訳ない程度につまむだけだ。

 残りは甘いもの大好きな麗が食べてしま

うから、それで困ったことはない。

 でも兄貴がそんな調子で学校でもチョコ

レートを受け取らないせいで、そのチョコ

は全部俺に回ってくる。

 つまり“同じ家に住んでるんだから渡し

ておいて”ということだ。

 クラスメートには羨ましがられるけど、

ハッキリ言って嬉しいと思ったことは一度

もない。

 今年は特に。





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