[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「はい、どうぞ」

「い、いただきます…」


 麗の手料理なんて初めてだと慌てて思考

を切り替えて味噌汁に口をつけた。


「どう?」

「美味しい…」

「ホントに?お世辞じゃなくて?」

「うん、美味しい」


 市販品の固形をお湯に溶かしたとか、そ

ういう味じゃない。

 ちゃんと出汁をとるところから手作りし

た感じだと思ってハッと気づいた。


 母さんの味だ。

 母さんの味に近いんだ。


「よかった。

 チョコレートよりこっちのほうが喜ぶか

 なって思ったんだ」


 麗が緊張した表情を崩している横で焼き

魚にも箸を伸ばしてみたけど、こちらもほ

っくり身が解れてなんとも言えない香ばし

さが舌を撫でる。

 母さんに習ったんだろうかと食べながら

思う俺に、麗は綺麗にラッピングされた箱

を差し出した。


「はい、兄さん。

 ハッピーバレンタイン」

「え、チョコまで?」

「うん。だってこっちが本題だもん」

「あ、ありがとう。

 でも俺なにも用意してないや」


 去年までは皆で一緒に作って一緒に食べ

る、というスタイルだったからそもそもチ

ョコレートを用意しておくという習慣はな

かった。


「本命チョコだから、お返しはホワイトデ

 ーでいいよ」


 急に出されても返すものがないと困る俺

に麗はクスクスと笑って頬にキスをしてき

た。


 ほ、本命…。今、本命って言った?


 どんな反応も出来ずに固まる俺の目の前

に麗がその箱をそっと置いた。

 今までなんだかんだで先延ばしにしてき

た答えを出さなきゃならないのだと思うと

何とも複雑な心境だった。


「応えるかどうかは兄さんが決めていい

 よ。

 とりあえず僕の気持ちだけ受け取って」

「う、うん…」


 これだけ優しくて、気が利いて、ルック

スもいい麗なら付き合いたい女子なんてい

くらでもいるだろう。

 兄貴だって離れて暮らしているし、以前

のような取り合いをする相手もいないとい

うのに麗の気持ちは変わらずにまっすぐ向

かってくる。

 それを…嬉しいと自分が思ってしまって

いることを、そろそろ認めないといけない

のかもしれない。

 でも応えることで弟としての麗がどこか

に消えてしまいそうで怖い…そう思ってし

まうのも事実で。


 どうしようもないな、俺…。





[*前][次#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!