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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 向かいの布団で動く気配がして兄貴がす

ぐ傍らに立った。

 拳を握りしめたまま動かない俺の顎を指

先で掬い上げた兄貴のぼやけた顔が水分が

流れ落ちてクリアに映る。


「そういうことはちゃんと目を見て言った

 らどうですか」

「っるさい」


 どうせ否定と拒絶しかしないくせにと顎

に触れた兄貴の手を叩き落として下を向い

て目元をゴシゴシと浴衣の袖で拭う。

 その間に兄貴は断りもなく俺の傍に腰を

下ろす。


「僕を選ぶということがどういうことか、

 ちゃんと理解してますね?」

「俺なんて要らないんだろ、どうせっ」


 これ以上突き刺さる言葉を聞きたくなく

て掛布団ごと膝を抱え込もうとしたら今度

こそがっちり顎を掴まれて上向かされた。

 兄貴の視線が俺の目を射抜いてくる。


「えぇ、要りませんよ?生半可なら、ね」

「っ………」


 獲物を狙う静かな獣の光がその目の中で

揺れる。

 視線をそらすことさえ許さないその目に

囚われて、沈みかけていた心まで絡みとら

れる。

 その目が待っている、俺の一言を。

 迷いも冗談もない眼差しで。


「兄貴が、いい」


 兄貴の浴衣の袖を掴む。

 視線を絡ませたまま膝を抱えようとした

腕を伸ばして兄貴の首の後ろに回す。

 一度紐解いた気持ちは、口をついて出る

と次々と溢れ出す。


「欲しいなら俺の心をあげるから、兄貴の

 心を全部くれよ…」


 ようやく兄貴の表情が緩む。

 許しのように額に優しく唇が触れると、

体から緊張が溶け出していく。


「全部、ですか。

 我儘ですね、相変わらず」

「全部じゃなきゃ、嫌だ…」


 囁くのと同じ声で呟くと、キスをねだる

唇に啄むようなキスが繰り返し降ってき

た。





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あきゅろす。
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