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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「もしも、その、仮に、万が一だけどっ…

 そう、だったら…?」


 俺が返事をしないでいると、俺の視線を

無視してまた本を読み始めようとする兄貴

を繋ぎ止める為に苦しい言葉を重ねる。


「…顔を洗って出直してきなさい」


 ガツンと鈍器で頭を殴られたような衝撃

だった。

 いつも通りの静かな声が土足で心の中に

入ってきて、中を踏み荒らす。


 嫌われてはいないと思っていた。

 好きだと言われたことはないけど、よそ

見をするなという兄貴の言動に好かれてい

るんだと…思っていた。

 なのに…兄貴は今なんと言ったのか。


「駆のおままごとに付き合うほど僕は暇で

 も酔狂でもありませんよ」


 本をパタンと閉じると兄貴はその涼しげ

な目に言葉が出ない俺を映す。


「今、自分がどれだけ中途半端なことをし

 ているのか、自覚はありますか?

 あっちにフラフラ、こっちにフラフラ…

 その上で僕からも気持ちを引き出そうな

 んて傲慢だとは思わないんですか」

「フラフラなんてしてないっ!

 俺は、ちゃんとっ…!」


 精一杯してる、つもりだ。

 それでも二人が手を出してくることその

ものを阻止することは出来ない。

 どれだけ言っても諦めてくれないから。


 しかしそんな俺の動揺をまるで見透かし

たように兄貴はスッと目を細める。


「“ちゃんと”…なんです?

 本当に“ちゃんと”スッパリ断れば、手

 を出してくるような馬鹿ではないはず。

 誰でもいいのは、僕ではなくて駆のほう

 でしょう」


 兄貴の氷のような視線が俺の心の底を撫

でた。


「誰でもいいなら他をあたりなさい。

 そんな中途半端なままなら、僕は要りま

 せん」


 誰でもいいなんて思ってないのに、“要

りません”の一言に心の底から冷えた。

 詰まった言葉の代わりに涙が溢れそうに

なるのを俯いてぐっとこらえる。

 いつもの軽口のように聞き流していい類

の言葉でないことは兄貴の目を見ていれば

わかる。

 でもだからこそ重くて、心を芯から冷や

した。





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あきゅろす。
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