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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


 ペラ…


 兄貴がページを捲る音が響く。

 しかしそれだけで、兄貴は一向に動こう

としない。

 布団の中でゴソゴソと動いて兄貴の方に

向き直ると、浴衣姿の兄貴がいつも通りの

姿勢で本に視線を落としていた。

 その横顔からはどんな表情も読み取れな

くて、余計に胸の奥がモヤモヤする。


「…なんで俺を連れてきたんだよ…」

「寝るんじゃなかったんですか」


 ボソッと呟いたのに売って響くような鮮

明な声が返ってくる。


「む…。

 明りがついてるから寝れないだけだし」


 その意地の悪い言い回しについついムキ

になって言い返す。

 だが兄貴は顔を上げさえしない。


「その質問にはもう答えたでしょう。

 もう忘れたんですか」

「兄貴が俺と旅行に行きたいって言ったん

 だって母さんから聞いた」


 ページを捲りかけた手が途中で止まる。

 短いような長いような間が空いて、よう

やくその口から洩れたのは小さな溜息だっ

た。


「だとしたら、何なんですか」

「だから…なんでなのかなぁって」


 否定しない兄貴の言い方はやや苛立ちが

滲み、日頃から言い負かされてるばかりの

俺としてはついつい言葉の端で隠しきれな

い笑みを浮かべる。


「別に大した理由じゃありませんよ。

 一人で出かけるのが面倒だっただけで

 す」

「本当に、それだけ?」





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あきゅろす。
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