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悪魔も喘ぐ夜 Character Episode
*


「あの」

「恵」


 桐生弟が何か言いかけたのとほぼ同時に

すぐ後ろから莉華の声。

 名前を呼ばれると同時に肩に手が触れて

振り向くように莉華のほうへと引かれた。

 話の途中で莉華が割って入ってくるなん

て珍しい…と思う暇さえなかった。


「ん?」


 やわらかいものが唇に触れた。

 ふんわり花の香りを残して、それが何か

悟る前に莉華の顔が離れていく。


 停止した思考が回復するまでにしばしは

の間。




「なっ、なんっ…?!」


 口はパクパクするばかりで言葉にならな

い。

 莉華はそんなあたしを見てニッコリ笑っ

た。

 悪戯が成功した時の小憎らしい満面の笑

顔。


「お弁当、ついてましたわよ」


 あまりに白々しすぎる返事に言葉も出て

こない。


 いつも昼ご飯の後はちゃんと歯みがきし

てるからありえないとか、ここは部室でみ

んなに見られたとか、そういえば最近ロー

ズの香りのするリップを莉華が使ってたと

か、実はこれがファーストキスだとか、


 いろんなことが一気に口から出ようとし

て渋滞をおこし結局何一つ出てこない。



「あ、そうだ。帰り道の途中にあるゲーム

 センターに最近新しい台が入ったんです

 のよ。あとでキスプリ撮りにいきましょ

 うね、恵」


 確信犯が傷口に粗塩を揉み込んできた。

 確かに女友達の中には同性同士でキスプ

リを撮る子もいるけど、莉華とは今までそ

んなことただの一度もしたことはない。


 ないけれども…きっと詰問すればあっさ

り「だって本当についてたんですのよ、お

弁当」と親切でしたんだとアピールした上

で「他の子たちはしているでしょう?私も

恵とキスプリ撮ってみたかったんですの」

とゴリ押しされるに違いない。

 そして帰り道は当たり前みたいな顔でプ

リクラ機に連行されてしまう。


 莉華はそういう子だ。


 絶対にそういう流れにはしたくない。





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あきゅろす。
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