悪魔も喘ぐ夜
*
悪魔は俺が思っていたよりずっと狡猾だ
ったらしい。
1時限目の休み時間、殺傷力の高い武器
をもって教室にわざわざやってきた。
…そう、「お弁当」だ。
しまった…。
母さんが起きる前に出てきたから受け取
り損ねた…。
今更そう思ったところで後の祭り。
ただでさえ目立つ容姿の兄貴が、弁当を
片手に黄色い声を上げていたクラスの女子
生徒に俺を呼ぶように頼んでいる。
兄貴はこの学校じゃ有名人だ。
入学式をしたばかりの1年生にとって、
入学式で生徒会長として在校生代表のスピ
ーチをした兄貴の姿はまだ記憶に新しいだ
ろう。
その兄貴が、俺を弟だと言って呼んでい
る。
インパクトとしては十分だ。
なにせ同じ血が体に流れているのかと思
うほど似ていない。
「桐生君ってあの生徒会長の弟だったん
だ!?」ヒソヒソ囁いているつもりだろう
けど、みんな露骨に声が大きい…。
ただでさえ出て行きにくい空気である上
に、今朝あからさまに避けた一件が兄貴の
頭の中にはあるだろう。
兄貴は怒らせるとねちっこいんだ、昔か
ら。
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