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悪魔も喘ぐ夜
*


『着信拒否リスト、調べてみ?』

「は…え?なんで…?」

『番号が変わってへんのに履歴すらないな

 んておかしいやろ』


 言われてみればそれは確かにおかしいの

だけど、俺は今まで誰かを着信拒否にした

ことなんてない。

 持ち主に身に覚えがないのに、設定され

ているなんてことあるだろうか。


「えっと…それってどこ開けばいいんだ?

 そんなの設定したことないから何処にあ

 るんだか…」


 受話器を肩と耳の間で挟んで携帯端末を

弄る。

 開いたこともない設定の画面を探すのに

難儀したものの、なんとか着信拒否リスト

のページを開くことに成功した。

 俺が開いたことのなかったそのページに

は、090から始まる番号が一つだけ表示

されていた。

 クロードは着信拒否なんかしていないと

いう俺の言い分をどこか信じていないよう

な口ぶりだったけれど、それ以上は言及し

てこなかった。

 電話口で言いあったところでどちらにも

証拠はなく堂々巡りにしかならないと踏ん

だのだろう。

 けれど自分で設定した覚えのないものが

どうして登録されているのか…そう考える

と少し怖かった。

 誤作動なんて考えにくいだろうし、かと

いって無断で触るような相手にも心当たり

はない。

 そもそも着信拒否の設定そのものが俺し

か知らないパスワードの入力が必須だ。

 おいそれと誰にでも扱うことが出来るわ

けではないはずなのに、どうしてクロード

の番号が着信拒否されているのか。


『駆が設定したんやないって言うんやった

 らそれでええよ。

 けどそれやったらそれで、誰がそないな

 ことしたんか気になるなぁ。

 まぁ、だいたい察しはつくけど』


 クロードの言葉が剣呑な空気を帯びる。

 クロードの疑いは直接俺からは反れたよ

うだけど、それは決して何かを解決したわ

けではないようだ。

 受話器を持ち直す拍子に腕組みしてこち

らを正視している兄貴が見えたけど、まさ

かな…と邪推を振り払った。

 いくら兄貴だって俺の携帯を勝手に弄っ

たりはしない…と思う。

 でもだとしたら誰が?

 その疑問に答えは出ない。

 と、廊下の方からぺたぺたと足音が響い

てきた。


「お兄ちゃん、おはよー」


 俺が電話の向こうのクロードに何と返事

を返そうか言葉を迷っている間にリビング

に入ってきた麗がぎゅーっと抱き着いてく

る。

 いつもなら誰かが電話していれば物音さ

え控える麗なのだが、今朝は寝癖をつけた

ままパジャマ姿で抱き着いてきたことから

察するにまだ半分寝ぼけているのだろう。

 電話越しのピリピリした空気をどうした

ものかと悩んでいたのだが、くっついてく

る麗の体温はそれを緩和してくれた。



『駆、聞いてるん?』

「あ、うん」


 いつまでも返事がない俺にクロードは痺

れを切らしたようだが、犯人に心当たりな

んてないし犯人探しをしたいとも思えない。

 俺が寝込んでいる間に設定されていたも

のなら家族の誰か以外は考えられない。

 けれど家族を疑う事なんてしたくないし、

パスワードを変えてしまえばこれから先は

こんなことは起こらないんじゃないだろう

か。

 兄貴あたりにそんなことを言ったら危機

感がなさすぎると一蹴されそうだが、この

中で誰が一番犯人の可能性があるかと考る

とそれもまた兄貴なのだ。

 もし全員がパスワードを知っていたとい

う状況でなら、おそらく兄貴は迷いもなく

そうしただろう。

 むしろあんなことがあって携帯端末を取

り上げられなかったのが不思議なくらいだ

から。

 けれど今の俺にそれを言及するだけのパ

ワーはない。

 確証の無いことで兄貴を疑う事は勿論、

兄貴が認めなければそのまま言い争いに

なるだろう。

 なんでもなかったようなフリをしてい

る俺に兄貴と真正面からやり合う余裕な

んてない。

 画面を閉じて携帯端末をポケットに滑り

込ませ、俺の胸に顔を埋めてご機嫌な麗の

頭を撫でる。

 寝癖のついた柔らかい金髪は部屋に差し

込んできている朝陽を浴びてキラキラと光

り、麗も擽ったそうに笑った。





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あきゅろす。
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