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悪魔も喘ぐ夜
*


「試験範囲なんて大して変わらないでしょ

 うから僕が教えると言ったはずです。

 学業は確かに大事ですが、身の危険を冒

 してまで優先するべきものではありませ

 ん。

 たとえ出席日数が足りなくなったとして

 も、留年すれば」

「留年したってっ…クロードがいなくなる

 保証なんて、ないじゃないか…」


 400年という長い寿命を持つ淫魔にと

って1年がどれほどの感覚でいるのかは知

らないけど、ちょっと長めの夏休みくらい

に思われていたら1年でクロードが諦めて

イギリスに帰るなんて保証はどこにもない。


「ではその為なら鎖に繋がれて朝もなく夜

 もなく、文字通り死ぬまで搾り取られる

 将来も受け入れるんですね?」

「秀、やめなさい」


 朝っぱらからする話題じゃないと思った

のかさすがに父さんの制止が入ったけれ

ど、兄貴の冷えた視線はグサグサ突き刺さ

ってきた。

 それでいいのかと言われたら、それは嫌

だとハッキリ言える。

 でも、そうじゃない。

 俺が学校に行きたい本当の理由は、テス

トの為でも出席日数のせいでもない。

 クロードが退院したからだ。

 昨日までは母さんがパートに出て家を留

守にしていた間に病院に通っていた。

 お見舞いのフリして病院へ行って、個室

で何をしていたのかと言われたらクロード

の身体チェックだ。

 クロードは毎日と言った。

 きっと一日でも俺が顔を出さなければ、

遠慮なくしたいようにしただろう。

 それでも今まで何もしてこないところを

見ると、やはり約束は守ってくれているん

だと思う。

 約束が守られている以上は、約束を守っ

てほしいと願う限りは、クロードの条件を

呑み続けなければならない。

 しかしクロードは退院してしまった。

 病院に通うだけなら一応人目もあるし、

よっぽどな行動には出ないだろうと高をく

くっていられた。

 でも学校に行けないとなったら、今度は

クロードの滞在先に出向かなきゃならない。

 学校と滞在先と、どちらがより安全かと

言われたら前者としか言えないんじゃない

だろうか。

 だから学校へ行けない方が危険だし、学

校に行かなかったとしてもクロードとの接

触を絶てるわけではない。

 この本当の理由を告げずに兄貴を納得さ

せられる理由を俺は用意できなかった。


「反論できないでしょう?

 大人しく家にいて、母さんが帰ってくる

 まで家事でもしていなさい」


 何も理由を知らなければ兄貴の言うこと

が正論だしベストなんだろう。

 だけど…。


「自分の身ぐらい自分で守るから、もうほ

 っといてくれよ」


 そう言うのが精一杯だった。

 勘違いだったとはいえ助けにまできてく

れた兄貴に対して言う言葉じゃないのは分

っている。

 でもそうやって兄貴の言葉を退ける以外

に、俺が学校へ行く為の口実なんて思いつ

かなかった。

 兄貴の言うとおりどんな理由も身の安全

を捨ててまで得たいものかと言われたら

NOと答えるだろう。

 でも二人の将来を脅かされるのなら答え

なんて問うまでもない。





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