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悪魔も喘ぐ夜
*


「誰かに見られたり…しないよな?」

「駆がそうしてって言うんやったらそうし

 たるよ?」


 どっちでもいいとクロードは笑うけど、

俺には頷くしかなかった。

 誰かに見られでもしたら、もう二度とこ

こに出入りできなくなる。

 制服のシャツに手を伸ばして一つずつボ

タンを外していく。

 さっきシャワールームで脱いだまま下の

シャツは着ていないからそのままの素肌が

空気に触れた。

 肌の上を舐めるようにクロードの視線が

這うのを感じながらそれを意識しないよう

に集中し、ベルトに手をかけて緩めている

ところで首筋を甘く咬まれた。


「っ、まだ途中なのに変な事すんな…っ」

「後でも先でも同じやろ?

 さっきのバドミントンも俺の勝ちやった

 し、小さいこと言わんといてや」


 さっきのバドミントンで勝ったら何かす

るなんて聞いた覚えはない。

 それでも“チェック”の間のクロードに

逆らうのは危険だとわかるから口には出さ

ない。

 いつも通りに見えるけれど、何かのスイ

ッチが入るのか些細な抵抗さえ許してくれ

ない時がある。


「わっ」


 気がついたら長ソファに押し倒されてク

ロードを見上げていた。

 まだ脱ぎかけだと言っているのに待ちき

れないように首筋から鎖骨のあたりにかけ

て唇が這う。

 肌にかかる吐息がくすぐったくもあり、

日増しに身体検査からは遠く離れていく行

為を肌で感じる。

 でもきっとそういう行為そのものにどれ

だけ近くなろうと、拒むことはできないだ

ろう。


「なぁ、まだ考え中なん?

 俺もう待ちくたびれてんねんけど」

「まだ、もう少し…。

 んっ、母さんも行方不明だし、それどこ

 ろじゃない…」


 母さんの不在はごくごく身近な友達しか

知らない。

 そしてそのごく少数の友達には旅行に行

っていることにしている。

 しかしクロードは遠縁と言えど親戚だ。

 母さんが行先を告げずに姿を消したとい

うことは伝えている。

 母さんはやっぱり実家にいるのかもしれ

ない。

 けれどもそれは母さん本人の口から聞い

たわけではないし、置手紙で残っていたわ

けでもない。

 いつ知ったのかもわからない、そんな曖

昧な記憶を口に出すのは憚られた。


「どこに居てんのやろうなぁ、セシリア。

 本家を追放されてまで手に入れたもんを

 こんなに簡単に捨てる気になったんやろ

 か」


 クロードの言葉が耳に痛い。

 実家に帰ったのが本当だとしたら、母さ

んは何故追放された身で実家に戻ったのだ

ろう。

 右手を握ると中指に確かな感触を感じ

る。

 母さんが今まで肌身離さずにいた指輪

の存在感に胸がざわめいた。





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あきゅろす。
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