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悪魔も喘ぐ夜
*


「家にいるのが一番だっていうのは解って

 るよ。

 だけど…それじゃ嫌なんだ。

 家に籠って1人きりでいるくらいなら、

 危険でも外に出たい。

 その為に耐えられらることは全部クリア

 してみせる。

 だから…指、抜いて」


 兄貴はそれでもまだじっと俺を見てきた

けど、負けじと見つめ返していたらふっと

口元に微かな笑みを浮かべた兄貴は焦れっ

たいほどゆっくりと指を引き抜いた。

 “いい顔になってきたじゃないですか”

…そう独り言のように呟いて。

 縁は思ったより兄貴の指をしっかりと咥

え込んでいたようで、抜き取る時に縁が捲

れるのが分かって顔が赤らんでしまう。


「…わかりました。

 でも耐えられなくなったらまず僕に言い

 なさい。

 それが絶対条件です。いいですね?」

「いい、けど…。

 学校行けなくならない…よな?」


 それは物理的な意味と身体的な意味でだ

けども。

 すんなり頷けない俺の警戒した視線を兄

貴は意味ありげな含み笑いで見下ろしてき

た。


「駆がそう望むのならば、いくらでも」

「バッ…!

 そんなわけないしっ!」


 “いくらでも”

 兄貴の言葉が耳の奥でリピートする。

 その含みのある笑みにブンブンと首を振

って返す。

 学校に行きたいからクロードの悪戯に耐

えているというのに、なんでそういう方向

に話がいくのか。

 顔が熱いのはそういうのを期待してるか

らじゃない。

 うん。


「おや、そっちの意味でも期待しているん

 ですか?

 いいですよ、駆が望むなら」

「望んでないからっ!

 もう、部屋帰れよっ…!」


 兄貴は絶対に解っていてそう言う言葉を

選んでいる。

 さも今気づいたように言うその口元は意

地悪く笑ったままだ。

 悔しくなって兄貴の腕に掌をあててグイ

グイと押し返し、早く出ていけと急かす。

 そんな俺の手首を掴んで止め、吐息がか

かりそうな距離にもう一度兄貴の顔が近づ

いてきた。


「素直になることです。

 そう考えたということは、それを望んで

 いる証ですから」

「証ってなんだよ…。

 俺は別に嘘なんて吐いてないし」


 口を尖らせる俺に兄貴はやや口角を上げ

た。


「いいですよ。

 今はそういうことにしておいてあげます。

 天秤にかけた挙句に揺れているものに手

 を伸ばすほど、僕は暇でも酔狂でもあり

 ませんから」


 笑みはそのままなのにひどく意地の悪い

口ぶりで兄貴は顔を上げた。


「ただ…僕を選ぶのなら覚悟することです。

 生半可を許すほど僕は優しくありません

 から」

「選ぶとか…おかしいだろ、そんなの。

 なんでみんなそうやって選べって言うん

 だ。

 俺は誰も選びたくなんかないのに…」
 

 拗ねて横を向いた俺の耳に思いがけない

言葉が降ってきた。


「“誰も選びたくない”…そう言いながら

 揺れているからですよ、駆が」

「だから、揺れてないって。

 なんでそうやって決めつけるんだよ、俺

 の気持ちなのに」


 ムキになって兄貴に向き直って強い視線

を向けると、それでも動じない兄貴の視線

にぶつかった。





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