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悪魔も喘ぐ夜
*


“欠点だと思っていても、それを必要とす

 る状況になれば有利に働くこともある”


 今まで俺はフェロメニアとして奪われる

ことばかりを指折り数えてきた。

 目指していた漠然とした未来への道が閉

ざされて愕然と立ち尽くすしかなかった。


 でもフェロメニアだからできることがあ

るんじゃないか…。


 カイルと話すことでリラックスした頭が

別の角度から物事を考えることを思い出す。

 もうどこにも行けないと立ち尽くすしか

できなかったけれど、視界が広がることで

新たな道が見えてくる。

 それはまだ行く先も見えない不確かな道

だけど、その道に賭けてみたかった。


 あんなにも脆く揺らいでいた足元が、自

分の気持ちに気づいただけで今までにない

くらいしっかりしてくる。

 自分の体に人でない血が入っていると知

った時から…いや、兄貴がおかしいと気づ

いた時からブレていた視界がハッキリとし

た輪郭を取り戻す。


 足掻ける限り足掻こう。

 それは他人から見たら愚かで滑稽なこと

かもしれないけど、決して利口な選択では

ないだろうけど、それがきっと一番俺らし

い生き方だ。




「サンキュ、カイル。

 なんかさ、ずっとモヤモヤしてたのが晴

 れたみたいだ。

 方向性なんて全然わからないんだけど、

 少なくとも俺自身はまだ諦めたくないん

 だって解った」

「フン。やはり愚か者だな。

 願望を口にすることなど誰にでも出来る。

 それを叶えるための行動と結果が伴わな

 ければただの独り言だ」

「それはこれから考える。

 母さんが帰ってきたら、な」


 ありありと眉根を寄せて釘を刺してくる

カイルに明るく言い放って俺は席を立った。

 そうと決まればやらなければならないこ

とがいっぱいある。

 まずは家に帰って夕食を作らなければな

らない。

 いつの間にか夕陽はだいぶ傾いてきてい

た。


「もう遅いから、そろそろ帰る。

 当番だから夕飯作らないと」

「おいっ。クロード様がまだ」


 ぐーっと伸びをする俺に噛みつかんばか

りの勢いでカイルは立ち上がったが、俺は

ニッと笑いかけた。


「クロードの言っていた“何故”の答えが

 わかったって言ったら、きっと悪い顔は

 しないよ。

 クロードのせいじゃないんだ。

 ただ俺が、どうしようもなく諦めが悪い

 だけだから」


 満面の笑みを浮かべたまま言ったら、カ

イルは呆れと苛立ちと義務感に揉まれて咄

嗟には言葉が出ないようだった。


「俺、もっと強くならなきゃダメだな。

 俺を囲むものの全部が牙を剥いてるよう

 にしか思えなかったんだけど、そうじゃ

 ない。

 俺の視野が狭くなって見えなかっただけ

 なんだな」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 もう二度と忘れないように。





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