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悪魔も喘ぐ夜
*


「カイルってすごいんだなー。

 クロードのサポート完璧にしてるし」

「…嫌味か。

 だがクロード様がお前を連れて本国へお

 帰りになるまでは完璧に任務を遂行する

 つもりでいる。

 妙な気を起こして俺の手を煩わせるんじ

 ゃないぞ」


 素直に褒めたのにカイルは一瞥しただけ

だった。

 そして過去の件を蒸し返しながら俺に釘

を刺す。

 もう苦笑いを浮かべるしかなかった。


「俺はイギリスに行くつもりはないよ。

 今のところは、だけど。

 そりゃ母方の祖父さんや祖母さんが生き

 てるなら会ってみたいとは思うけどさ。

 俺にとっては日本が母国だから、出来る

 なら出来るだけ長く日本にいたいよ」


 笑みを浮かべたままかぶりを振ったら、

カイルの口から更に棘のある言葉が飛んで

きた。


「呆気者が。

 ある日どこの誰とも知れぬ者に捕えられ

 身ぐるみ剥がされて売り飛ばされるより、

 クロード様の下にいた方がよほど安全で

 利口だ。

 お前のような阿呆を本国へ連れ帰れるな

 ど容易い。

 それでもそれをせずお前の返答を待って

 下さっているクロード様の温情が何故わ

 からんのだ」

「分かってるよ。

 さすがに俺だってそこまでバカじゃない

 って。

 だけど…」


 漠然とした気持ちはまだ言葉には出来な

い。

 ただこのまますんなりクロードの誘いに

乗るのは怖い。

 何となく感じるだけの言葉にはできない

違和感が常に頭の片隅にある。

 これは根拠のない勘なんだと思う。


「俺にもよくわからないんだけど、まだ答

 えを出すには早いんだと思う。

 俺が淫魔について知らない事っていっぱ

 いあって、まだ他により良い未来もある

 んじゃないかって気持ちが頭の片隅にあ

 るんじゃないかな。

 ほとんど何も知らないままで、そういう

 未来を諦めきれないっていうか」


 クロードに問われた時は出なかった言葉

が口をついて出てくる。

 不思議だ。

 全てを投げ出してしまいたいと思ったこ

とすらあったのに。

 それでもやっぱり諦めきれないとみっと

もなく足掻く気持ちがまだあったのか。

 それはまだ一歩も踏み出せていない気持

ちだけど。

 踏み出す先すら見つけ出せない気持ちだ

けど。

 それでも。


「うん。俺、やっぱり諦めたくないよ。

 なんだかずっとグルグル色んな事考えて

 たけどさ、結局はどんなにみっともなく

 見えてもまだ足掻きたいんだよね。

 もう全部諦めて投げ出してしまいたいと

 思う瞬間もあるけど、周りから見たらた

 だのバカにしか見えないんだろうけど。

 それでも…それでも俺は諦められないん

 だ。

 諦めたくないんだ、全てに絶望してしま

 うまでは」





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あきゅろす。
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