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悪魔も喘ぐ夜
*


「…まぁお前自身は研究材料として一生モ

 ルモット扱いだろうが」

「……」


 今、聞き逃しちゃならないことをカイル

がサラッと言ったような気がする。

 俺個人としてはそこが一番重要なんだけ

ど!


「なんか納得いかない…」

「黙れ、食糧」


 ムスッとした顔で唇を尖らせたが、カイ

ルはいつも通りあっさり切り捨ててくれた。

 だからちょっと言い返してみたくなった。

 今まで少し気になっていたことだ。


「でもさ、フェロメニアの効き方って個人

 差あるんじゃないのか?

 兄貴や麗、クロードは甘い甘いって言う

 けど、カイルは一言も言ったことないじ

 ゃないか」

「わざわざ言う必要ないだろう」

「じゃあいつも甘いと思ってんの?」

「あぁ」

「今も?」

「だからそうだと言っ」


 わざとつっかかる物言いをした俺につれ

ない返事を返してきたカイルだったが、畳

み掛けた言葉に見事に引っかかってくれた。

 いや、まさかこんなに簡単にひっかかっ

てくれるとは思わなかったけど。

 カイルも気づいたのだろう。

 言いかけた言葉をぐっと飲み込む。

 だから念押しにつついてしまった。


「フェロメニアって常に香り続けてる訳じ

 ゃないらしいよ?

 やっぱり個体差あるじゃないか。

 だったらそもそもフェロメニアの香りや

 体液が万人の淫魔に効くとは限らない」


 カイルは乗せられたことによほど腹が立

ったのかツンと横を向いたまま無視を決め

込むようだった。

 カイルの返答をジリジリと待っていたが、

そもそもカイルは俺に気を遣ってくれたん

だというのを思い出して自己嫌悪に陥る。

 カイルにつっかかってどうするんだ、俺。

 これじゃ完全な八つ当たりだ。


「ゴメン、言い過ぎた。

 でも万人に同じように効くわけじゃない

 から、フェロメニア狩りとかやめてくれ

 ないかなぁ…」


 ただ生まれ持ってしまった体質の為に未

来を奪われるなんて悲しいことはなくなっ

てほしいと切に願う。


「俺を比較対象にするのはやめろ。無駄だ」

「いやいや無駄って言われても…。

 淫魔の知り合いってカイル含めて3人し

 かいないんだから」


 あとの二人はもちろんクロードと母さん

なわけで。


「俺は…えないから」

「えっ?」


 一瞬ひどく声が籠ってさすがに聞き取れ

なかった。

 真顔で尋ね返すとカイルは思いがけず渋

い表情で言い直してくれた。


「吸えないんだ、俺は。

 体が受け付けない」

「へ…?」


 ポカンとして固まってしまった。

 今までさんざん「人間なんて食糧だ」と

言っていたのに。

 カイルはといえば知られたくない相手に

自ら秘密を明かさなければならなくなって

しまったと言わんばかりの渋い顔でそっぽ

を向いている。


「あれ、カイルって精気吸えないのか?

 淫魔なのに?」

「っるさい!

 お前ら人間だってアレルギーだのなんだ

 の、食わない奴らが大勢いるだろう!」


 思ったことを直接言ってしまったらそれ

はカイルの中で地雷だったらしく、噛みつ

かんばかりの勢いで怒鳴りつけられた。

 つまり、今までの「人間は食糧」発言は

コンプレックスの裏返しだったらしい。





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あきゅろす。
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