[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜
*


「そう言うけどさ…フェロメニアっていい

 イメージないんだよな。

 なんか…捕まったら一生飼い殺されると

 か、死ぬまで精気吸われるとか。

 怖い話しし聞かない」

「まぁ、事実だからな。

 捕えた者が商売目的なら売り飛ばされる

 こともあるだろう」


 カイルは涼しい表情のまま言い切った。

 それでさらに落ち込みながら、“やっぱ

りフェロメニアなんて…”と心の中で続け

てしまう。

 生んでくれた父さんや母さんには恨み言

なんて一つもない。

 でもそれとこれとは別だ。


「半端でもフェロメニア、か…。

 お前はC&M社が何の企業か知っている

 か」

「えっと、世界有数の医薬品メーカー…だ

 っけ?」


 突然話を別の方向に振られて戸惑うが、

なんとか記憶の淵から朝の些細なニュース

の断片を引き上げる。


「そうだ。

 C&M社は淫魔社会においても必ず五指

 の内には入る大手医薬品メーカーだ」

「薬とフェロメニアとどういう関係がある

 んだよ?」


 C&M社が国際レベルの企業だというの

は分かったけれど、それと俺の厄介な体質

がどう繋がるというのか。

 カイルの言い分はいまいちわからない。


「これは俺個人の憶測だが…」


 カイルにしては珍しく言いにくそうに前

置きをする。

 まるで出過ぎた真似をしているという罪

悪感の表れのようだ。


「フェロメニアは多くの淫魔にとって噂

 や言い伝えの域を出ない存在だ。

 そんなフェロメニアに関する商品が開

 発され、量産されることになったらど

 うなると思う?」

「どうって聞かれても…」


 カイルの質問はなんだか難しい。

 いや淫魔視点で語るから俺にはわかりに

くいのかもしれないけれども。


「単純に考えれば売れるんじゃないのか?

 あんまり高額にならなきゃ、だけど」

「まぁ、そうだな。

 フェロメニアそのものの売買と比べれば

 格段には安くなるだろうが、おそらく物

 珍しさも手伝って飛ぶように売れるだろ

 う。

 だがそうして淫魔の社会にフェロメニア

 が浸透していけば、一時的なフェロメニ

 ア狩りのブームは起きたとしても長い目

 で見れば決してマイナスにはならないは

 ずだ」


 やっぱりカイルの言うことは難しい。

 というか視点が違いすぎて理解し辛い。

 途中でフェロメニア狩りとか物騒な単語

が出てきたけれど、長い目で見れば悪い事

ではないと言いたいようだ。


「えっと…何がどうなるからいいんだ?」

「無闇やたらとフェロメニアが狩られるこ

 とが減るということだ。

 フェロメニアだからと生きたまま捕えら

 れ死ぬまで貪られることも、あるいは金

 で売られて一生籠の鳥にされることも少

 なくなる…おそらくな」

「そういうもんなのかな…」


 よくわからないけど。

 だがもし俺のように理不尽に未来の選択

肢が奪われる人が減るのなら、いい事なの

かもしれない。





[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!