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悪魔も喘ぐ夜
*


 カイルはもう俺との会話になど興味もな

いといった感じで制服を脱ぐ。

 しかし普段は目にすることのない背中が

露わになった時、俺は思わず自分の目を疑

った。


「カイルっ!?それ…っ!」


 また嫌な顔をされるとか、そういうのを

考える暇もなく駆け寄る。

 カイルの背中にはまるで鋭い刃物で斬り

つけたような大きな十字創が残っていた。

 傷口の様子から決して最近のものではな

いだろうことは窺い知れたが、それにして

も心臓が飛び跳ねるほど驚いた。

 一体何があればこんなところにこんな傷

ができるのか…。

 ハッキリ言えば、誰かが故意につけたと

しか思えない傷だった。

 血相を変えて駆け寄った俺の様子に何の

ことを言っているか悟ったのか、機嫌の悪

そうな空気を貼り付けたまま鬱陶しげに俺

を睨んだ。


「お前には関係ない」

「だけど」

「黙れ」


 カイルは反論を許さなかった。

 極めて短い言葉で俺の続く言葉をはねの

けると、深い傷跡を惜しげもなく晒しなが

らそれ以上の言葉を拒絶していた。


 キーンコーンカーンコーン…


「げっ…!」


 チャイムの音に自然と掛け時計に目がい

く。

 もうとっくに授業開始の時間で、カイル

が何でもない顔で着替えているから時間が

なかったことなどすっかり失念していた。

 いつまでも体育館にいかないと遅刻した

言い訳にも苦労する。

 カイルの背中の傷は気になったけれども、

それ以上気にしている時間的な余裕もなく

俺は教室を飛び出した。

 5分遅れで体育館に辿り着いた俺は新入

生なのにボーっとしていてどうするとか説

教のような茶化しをいれられて授業に参加

したけれど、それよりだいぶ遅れて授業に

着いただろうカイルは何食わぬ顔で混じっ

ていて姿を見つけた時には複雑な気分だっ

た。

 きっと例の能力を使ったんだろうという

のは想像に難くないんだけど、あの能力っ

てやっぱりズルイなぁと…ちょっとだけ思

ってしまった。

 まぁ半魔とは言ってもほとんど人間より

だという俺が努力したところであんな便利

な能力を身につけられるとは思えないけど

も。

 いや、もしかしたらあの能力があれば実

は今直面している物事の殆どはスムーズに

片付くんじゃないかという所まで考えて、

虚しくなるから思考を切り替えた。

 ないものねだりしてこれ以上虚しい気持

ちを味わいたくなかったから。





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