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悪魔も喘ぐ夜
*


 怪訝に思って説明を求めようとしたけど

指輪をじっと見つめていたクロードは答え

てはくれず、すっかり勢いを失った局所か

らようやく離してくれた手で指輪に触れた

瞬間…


 バキンッ


「っ!?」


 突然響いた音に驚いて肩が震えた。

 クロードもまるで静電気を起こした時み

たいに慌てて手を引いた。

 痺れているのか引いたまま中途半端なと

ころで手を止めていたけど、そこから赤い

雫が一滴、俺の肌の上に落ちた。

 それが血だとわかったのはゆっくりと指

先に溜まった2滴目が俺の肌の上に零れ落

ちた時だった。


「クロードっ!?

 えっ、なんで…!?」


 慌てる俺をよそにクロードは指輪を凝視

したままピクリとも動こうとしない。

 随分と長い沈黙がおりたけれど、やがて

クロードのほうがすっと目を細めて俺の手

首を解放した。


「この指輪に関して、セシリアは何も言う

 てなかったん?」

「う、うん。聞いてないけど?

 何か引っかかるの?」


 答えながら尋ねるも零れ落ちる血も無視

できない。

 手を伸ばそうとした俺の手をすり抜ける

ようにしてクロードは立ち上がった。


「駆はゆっくり身支度してから出てき?

 俺はちょっと手洗ってくるさかい。

 心配せぇへんでも“目隠し”はしとくか

 ら、な?」


 笑いながらも有無を言わさない間で言い

きってクロードは個室を出ていった。


「…何なんだ…?」


 ぽつんと一人取り残されて、まだ気怠い

感覚が残る体を引きずるようにして起こす。

 肌の上に残る乾きかけの血が、クロード

の怪我は見間違いではなかったと物語って

いた。

 しばらくぼーっとしていたけれども、ふ

と時間が気になって急いで帰らなければな

らないことを思い出す。

 乱されたままだった衣服を整えて部屋を

出る頃には、廊下で壁に凭れながらクロー

ドが待っていた。


「ほな、帰ろうか?」

「う、うん…」


 帰りの道中、当たり前な顔で車に押し込

んだクロードにさっき聞けなかったことを

改めて尋ねてみたけれど“まだ分からない”

という返事しかもらえなかった。

 これから調べてみるところだというのも。

 クロードがどういうルートで調べるつも

りかは知らないけれど、俺は母さんから聞

く以外に調べようがないわけでクロードに

任せる他ないという結論にしかならなかっ

た。


《護身用とちゃうやろ、これは》


 クロードの声が頭の中でグルグルする。

 この指輪は預けられただけで、本来の持

ち主は相変わらず母さんのはず。

 いや、何事もなければ今だって母さんが

身に着けていたであろうものだ。

 しかしお守りとして肌身離さずに身に着

けていたそれが護身用ではないという。

 一見ただのアンティークな指輪だと思っ

ていたのに、何故か触れようとしたクロー

ドには害を成した。

 これは一体どういうことなのか。

 考えても知識のない俺にはわからなかっ

たけれど、母さんはこの“お守り”を手放

している。

 今どこに居るのかもわからない母さんの

身が危険なんじゃないかという不安が次々

と湧き起ってきて、内心穏やかにはならな

かった。





[*前]

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