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悪魔も喘ぐ夜
*


 タオルをレンタルしてシャワールームに

足早に向かう。

 念の為と振り返ったけれどクロードの姿

はまだ見えない。

 ほっと胸を撫で下ろして衣服を脱いでシ

ャワー室に入り、目を閉じたまま頭からシ

ャワーを浴びた。

 遊ばれている、と思う。

 でもそうと分っていてもクロードの要求

は拒みきれない。

 クロードがその気になれば、きっと今す

ぐにでも俺を思い通りにできるんだろう。

 それだけのカードを持っていて、それで

も最強のカードは出さずに俺を泳がせてい

る。

 クロードがいつまでも本気を出さないこ

とに安堵しながらも、遊ばれているだけだ

とつくづく思う度にいっそ…と投げやりな

気分にさえなる。

 どんなに抗おうとしても、クロードの手

の内からは逃れようがないのだと思い知る

度に息がつまるようで苦しい。

 クロードは俺が身の振り方を決めるまで

“待っている”と言った。

 その言葉の重みを俺はようやくじわじわ

と理解してきているのかもしれない。

 考えても考えても、安定した未来のヴィ

ジョンなんて見えない。

 老いない体を隠して引っ越しや転職を繰

り返したところで不安定な生活しか望めな

いだろうし、そんな生活にはやがて無理が

出る。

 もし母さんが戻ってきた時に母さんの実

家に頼れないようなら、俺はきっとクロー

ドに頭を下げるしかないんだろう。

 いや…かつて追放された身で甘えような

んて無理かもしれない。

 母さんが苦しい思いをさせるくらいな

ら、いっそ俺がクロードのオモチャになる

と頷けば…。


 ガチャッ


 流れ続けるシャワー音に脱衣所と廊下を

繋ぐドアが開く音が割って入ってビクッと

肩が震えた。

 しかしそのドアはカウンターから個別に

鍵を借りてこないと開けられないはずで、

俺が借りた鍵は脱衣所の壁にひっかけてあ

るはず。

 そのドアが何故開くのか…と思っていた

ら話し声が聞こえてきた。


「ここまででええよ。おおきに」

「しかしお客様、中にいるお客様に何かあ

 りましたら当店としましては救急車を」

「もうええって言うてんねん。

 わかるやろ?」

「……はい。それでは私はこれで…」


 不自然な間の後、慌てたような声だった

女性係員がすんなりとクロードの言葉に従

った。


 …パタン。


 ドアが閉まる音がやけにじれったく響い

て、俺は思わずシャワー室のドアに手をか

けた。

 開けようとしたんじゃない。

 クロードがこのドアを開けようとしても

すんなりと開かないように、だ。


「なぁ、まだなん?

 俺もうとっくにシャワー終わってんけ

 ど?」


 救急車…と係員が口走ったわりにはクロ

ードの口調はのんびりしすぎている。

 ここのドアを開ける為に適当に騙して、

例の能力で“なかったこと”にしたんだろ

うか。





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あきゅろす。
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