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悪魔も喘ぐ夜
*


 差し出された手をじっと見つめ、心の内

に小さな葛藤を秘めながら仕方なくその手

をとって立ち上がった。

 冗談でじゃれついてくる時ならばともか

く親切で差し出された手を拒否したらさす

がに空気が悪くなる。


「さてと。俺はそろそろ帰ろうかな。

 バスの時間もあるし」


 切り出したのは高瀬で、つられるように

して時計に目をやった加我もラケットのグ

リップを左手に持ち変えながら口を開く。


「俺もそろそろ帰る。

 家でシャワーも浴びたいし」

「じゃあ俺」

「そかそか。

 じゃあ駆は俺ともう少し遊んでこか」


 雪崩るように俺も帰ると言おうとしたの

に、“俺も”にクロードの声がかぶさって

きた。


「えぇっ!?」


 なに勝手に決めているんだと非難の眼差

しを向けたが、油断した隙にするりとクロ

ードの腕が腰に回ってくる。


「もう1ゲームくらい付き合ってや。

 それでシャワー浴びて帰ろ。

 帰りは送ってくし」


 クロードはあっさりと言ってくれるが、

今の提案は全部嫌だ。

 全部拒否してしまいたい。


「いやいやっ、俺も家で手伝いしなきゃな

 らないしっ」


 勝手に決めるなと腰に回ってきた腕を外

させようと悪戦苦闘した。

 しかしそんな光景も日常の中で見飽きて

いるのか、二人は肩を竦めあう。


「まぁ、ほどほどにな?

 明日も学校だし」


 苦笑いで高瀬が笑いかけてくるなか、加

我は歩み寄ってきた。


「少しは気晴らしになったか?」


 加我の言葉に一瞬クロードのことさえ忘

れて弾かれたように加我の顔を直視する。

 何も言っていないのに加我は気づいてく

れていたのかと驚きで一瞬言葉が出なかっ

たが、間をおいて頷くと加我は僅かに笑み

を浮かべながら俺の肩をポンポンと叩いて

傍を離れ帰ろうとしている高瀬に合流す

る。


「じゃあまた明日、学校で」

「気を付けて帰れよ?」


 別れの挨拶をそれぞれ済ませて手を振り

合い、二人がラケットやシューズを返しに

フロントに向かうのを見届けてからいつま

でもくっついているクロードから体を離そ

うとした…が無駄だった。


「もう1ゲームなんて無理に決まってるだ

 ろ!?

 俺ももう帰るっ」

「へぇ?帰っていいん?

 まだ今日の分の“チェック”終わってへ

 んけど?」

「っ……」


 忘れていなかったのかと唇の端を噛む。





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