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悪魔も喘ぐ夜
*


「そうか。

 じゃあ新聞の締切も間に合ったし、これ

 からちょっとだけ遊んで帰らないか?」

「あぁ、うん。そうだな…」


 母さんがいなくなってしまった朝以来、

なんとなく家に居づらい。

 兄貴に謝ってしまえればいいんだけど、

その為には何故そんなことを言ったのかの

説明までさせられるだろう。

 その言い訳を未だに考え付かないから、

こちらからは切り出せない。

 麗は麗で何か言いたそうにこちらを見て

くるものの結局それを言葉にすることがで

きないようで、家に居てもぎこちない空気

が漂うことに俺自身も疲れてきていた。

 珍しい加我からの遊びの誘いに“たまに

は”とか“少しくらいなら”という気持ち

が混じったのは当然の結果だったのかもし

れない。


「じゃあ行こうか」


 幸いというかなんというか、今はクロー

ドもいない。

 曲がりなりにも新聞部員ということで、

どこかのクラスへ取材に行っているはずだ。

 このまま加我と帰ってしまえれば、実は

今日の分の“悪戯”からは結果的に解放さ

れることになる。

 それだけでも今日一日いいことがあった

ような気がして幾分か足取り軽く下駄箱に

向かったら、あろうことか向こうからやっ

てきたクロード達と鉢合わせしてしまった。


「あれ?もう帰るん?」

「あぁ、うん。まぁ…」


 あぁ、せっかくこのまま平和に帰れると

思ったのに…と心の中でこっそり泣きなが

らもクロードにこの後のことを聞かせたら

絶対についてくると思って言葉を濁す。

 よく見るとどうやら取材に行ってきたば

かりのようで、これから二人で記事をまと

めようとしている風だ。

 こちらから言わなければ“今日はたまた

まタイミングが悪くてうっかり忘れてしま

った”ということにできないか。

 いつもクロードの方から仕掛けてくるの

をイヤイヤながら受け入れるという形だけ

ども、こちらから誘わなければダメなんて

条件はなかったはずだ。

 つまりクロードがうっかり忘れているの

なら、クロードのほうが放棄したというこ

とで俺を咎める筋合いではない…はずだ。


「あぁ、これから桐生と」

「じゃっ、じゃあな!

 二人とも記事頑張って書いてくれ」


 事もあろうか加我が丁寧に説明してくれ

ようとしたので強引に遮って加我の手を掴

み、そのままズンズンと問答無用で早歩き

で歩き出す。


「ちょお待って。

 鈴木、コレ俺が書いとくさかいこれで終

 いにしよか」


 やっぱり無理って断って帰ってしまえば

良かった…っ!!


 心の中で激しく後悔したけど、もう後の

祭りもいいところだ。

 クロードとペアを組んでいた鈴木はクロ

ードが残りは請け負うと言ったのが大きか

ったのか、あっさり頷いて自分の教室に向

かってしまう。

 当番の二人を尻目に自分だけ息抜きしよ

うとしたから天罰が下ったのかと思考まで

ネガティブな方向に押し流される。

 クロードはそんな俺の心中を知ってか知

らずか、ニコッと満面の笑みを浮かべてみ

せる。


「で?二人して何処へ行こうとしてたん?

 俺もついてってええやろ?」


 最初からNOと言われることなんかない

と自負しているような物言いだった。





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あきゅろす。
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