[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜
*


「ん……」


 寝返りを打とうとして、出来ずに眠りの

底から意識がゆっくりと浮上する。

 俺の動きを制限していたのは抱き着いた

まま眠る麗で、まだ俺の腕の中でスヤスヤ

と寝息をたてていた。

 そういえばまた昨日もベッドに潜り込ま

れたんだったとうっすら思いだし、それに

してもまた変な夢を見たなぁと頭を掻く。


「うん…?」


 いつもは感じない違和感に頭を掻いてい

た右手を下ろす。

 と、右手の中指に鈍い銀色の光を反射す

る指輪が見えた。


「っ!?」


 夢じゃなかったのか。

 いや、夢のはずだ。

 だってこれは母さんの指輪だし、今まで

一度だって外したところなんて見たことな

い。

 嫌な胸騒ぎがして、俺はベッドから跳ね

起きた。

 麗を起こしてしまったのは申し訳なかっ

たけれど、それ以上の焦燥感が俺を駆り立

てる。

 一階に下りるが、家は眠ったように静ま

り返っている。

 おかしい。

 この時間はいつもなら朝食を作る音が聞

こえているはずなのに。

 見えない不安にかられてリビングダイニ

ングのドアを開ける。

 夢の中と同じで、でも夢の中とは違う現

在のリビング。

 その中央のテーブルには一枚のメモが置

かれていた。


“朝食は好きなように作って食べてね”


 そのたった一枚のメモを残して、母さん

は家の中から忽然と姿を消していた。

 昨日の夜は旅行どころか何処かに出かけ

る素振りさえ見せなかったのに、母さんは

ほぼ身一つで出かけてしまったらしい。

 遥か遠い母国へ。




 その日の朝はとても呑気に朝食なんて食

べている気分じゃなかったんだけど、俺以

外の3人は妙に落ち着いていて俺一人が騒

いでいるほうがよっぽどおかしいみたいだ

った。


「大の大人がちゃんと書置きを残して行っ

 てるんですよ。

 警察がこの程度で動くわけないでしょう」


 いつも表情の起伏がほとんどない兄貴な

らともかく、麗まで…


「お母さんも何か大事な用事があったんじ

 ゃないかな?

 帰ってきたらきっと色々話してくれるん

 じゃない?

 僕達はそれまで料理とか洗濯とか分担し

 てちゃんと生活できるよって母さんを安

 心させてあげる方がいいと思うな」


 普段ご近所から若おしどり夫婦とまで呼

ばれて、3人の中高生の親とは思えないほ

ど母さんを溺愛してる父さんまでが


「うーん…母さんも何か考えがあってのこ

 とだと思うね。

 何においてもこの家を、家族を愛してい

 る女性だっていうのは父さんが一番よく

 知っているよ。

 母さんがそう判断したのなら、きっとそ

 れで正しいんだと思う」





[次#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!