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悪魔も喘ぐ夜
*


「お兄ちゃん、起きて?

 大事な話があるんだって」


 ふわふわと覚束なかった意識がよく知る

腕にぎゅうっと抱き着かれて輪郭をハッキ

リさせる。

 水中を漂っているふうだったのが、急に

足の裏に地面を感じて一瞬驚きにフラつき

ながらも瞼を持ち上げる。


「麗…?」


 俺の体に抱き着いていたのは麗だった。

 まだ半ば覚めきらぬ意識のままいつもの

癖でぼんやりと抱きしめ返すと、腕の中の

体温がトクンと確かな体温を持って鼓動を

刻んだ。


「これは…夢…?」


 見回してみてここが自宅のリビングだと

気づくが、違和感がある。

 なんだろう?と思ってよく見たら、昔は

飾っていた幼い頃の家族写真がありながら

去年買い換えたばかりの掛け時計が時を刻

んでいた。

 俺がぼんやりと感じる違和感は、昔あっ

たけれど今はない物がつい最近買ったり貰

ったりしたものと混在しているからだと気

づいた。

 現実ではない、だとすれば夢か。

 率直に思ったことを口にしたら、腕の中

の麗が頷いた。


「そうだよ。

 ここはお兄ちゃんと僕の記憶から作った

 “空間”。

 昔でも今でもない場所」


 夢なのに…いや夢だからなのか、麗がこ

んな妙なことを言うのは?

 まぁ夢だし…とぼんやりしていたら、麗

にソファに座るように促されたのでゆっく

りとそこに腰を下ろした。


「あのね、お母さんからとっても大事な話

 があるんだって。

 ここに呼んでもいい?」

「うん…。いいよ。母さんだろ?」


 思考の動きは鈍いけど、母さんを拒む理

由なんてどこにもない。

 むしろなんでそんなこと聞くんだろう?

と首を傾げていたら、麗がぎゅっと俺の手

を両手で包み込んだ。


「僕ね、夢を“渡る”のには慣れてるけど

 夢を“繋ぐ”のは初めてなんだ。

 もしも負担をかけちゃったらごめんね?」


 不安げな目が俺を見つめてきたから、小

さく笑って麗の頭をポンポンと撫でた。


「麗なら大丈夫だよ」

「…うんっ。

 ありがとう、お兄ちゃん」


 不安げだった目がそれだけで輝き、よく

わからないけどそれだけで俺も嬉しくなっ

た。

 座って待っててと言う麗に言われてその

まま待っていると、麗はソファを離れて廊

下に繋がるドアに近づく。

 部屋は照明をつけなくても明るいという

のに廊下の方は真っ暗で、今が昼なのか夜

なのかもわからなくなる。

 でも夢だからきっとそういうものなのだ

ろうと深くは気にならなかった。

 そのドアを開けた麗はゆっくり深呼吸し

目を開けて挑むように目の前の闇を睨むと

その中に両腕を突っ込んだ。

 あぁ、腕の先が見えないなんてやっぱり

夢だなぁと呑気に構えている俺の目の前で

麗がグイッと突っ込んだ両腕を引き戻して

くる。

 そしてその両手の先が部屋の中に戻った

と思ったらその手は誰かの両手を掴んでい

て、闇そのものを蹴るようにして母さんが

部屋に飛び込んできた。





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あきゅろす。
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