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悪魔も喘ぐ夜
*


 今はとりあえず家に帰ることが最優先

だ。

 考えるのは帰ってから母さんと話し合う

時でいい。

 あんな不穏な言葉で通話が途切れたんだ

から、兄貴だって何かを察してくれたは

ず。

 荷物を持ってこの部屋から出れば、あと

は1階まで降りてしまえばクロードだって

無理強いは出来ないだろう…たぶん。


 なんとかショックから回復した頭が現状

把握をし始める。

 まずはこの部屋を出るにはどうすればい

いか…。


「俺がフェロメニアだから、そんなこと言

 ってるんだろ」


 “半魔でもフェロメニア、という考え方

もできる”

 母さんの言葉が頭を過った。

 クロードが欲しいのはフェロメニアとい

う体質だけだ。

 でなければ、こんな傍若無人な真似はし

ないはず。


「ちゃうって。

 ほんまにフェロメニアっちゅうだけやっ

 たら、とっくに身動き封じて本国に連れ

 帰ってるわ。

 本格的なフェロメニアの体質チェックは

 向こうでじっくり出来るんやし。

 こうして俺がありえへんくらい譲歩して

 るん、少しはわかってや」


 つつつ…と顎のラインをなぞる指先がま

るで刃物のようでゴクリと喉が鳴った。

 俺が全然譲歩じゃないと思っている態度

は、クロードにとっては本当に譲歩を重ね

たものなんだろう。

 強引に事を運べる状況でありながら、そ

れでも手を出さずに待っているんだと細め

られた目が俺に告げている。


「セシリアだってあれだけ誤魔化すん必死

 なんやで?

 女なら化粧でいくらでも誤魔化せるやろ

 うけど…同じことが駆にできるん?

 そうやなくても身分証明証はどこに行っ

 てもつきまとうやろ。

 どんなに頑張ってもずっと同じ身分証明

 は使えへん。

 働くことすらできんようになったら、ど

 うやって生きていくん?」


 顎をのラインをなぞっていた指先で顎を

掴むと俺の顔を上向かせて静かな目で見下

ろしてくる。


「それとも…他者を排斥する人の社会に揉

 まれながら不安と共に生き続けて、どこ

 ぞの淫魔に捕えられ死ぬまで輪姦されて

 最後には切り刻まれてホルマリン漬けに

 なるのでもかまへんの?」


 ビクッ

 思わず背筋を嫌なものが撫でて体が震え

た。

 脅かすなと言いたいのにその目は真剣そ

のもので、取りつく島もない。

 フェロメニアとは本来そういう立場の存

在なのだと、有無を言わせぬ空気が俺の言

葉を封じた。





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あきゅろす。
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