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悪魔も喘ぐ夜
*


「…だったら、なんだっていうんだ…?」

「他人事やと思ってるん?

 駆やってセシリアの子供やねんで?

 人間の寿命と足して2で割って…そうや

 なぁ、もし駆の寿命が200年やった

 ら、どないする?」

「どうするって言われても…」


 急に言われても何が言いたいのか分から

ない。

 200年…本当に200年も生きるんだ

ろうか。

 あまりに現実味のない数字にすでに俺の

方が置き去りにされていた。


「まだ分からへん?

 じゃあこう考えてみ?

 あと10年はそのままの姿でもなんとか

 押し通せるやろ。

 でも、20年30年…50年経ってもそ

 の姿のまんまやったら、桐生駆のまま人

 として生きていけると思うか?」

「っ……」


 余裕を滲ませるクロードの言いたいこと

がようやくわかった。

 さすがに定年を超える歳で二十歳そこそ

この外見をした人間なんて…違和感があり

すぎる。

 たとえ不思議な能力をもっていなかった

としても、そんなのは…人間じゃない。

 人の社会では生きていけない。


「まぁしゃあないって。

 駆はセシリア以外の淫魔にはこれまで会

 った事なかったんやし…あぁ、セシリア

 が淫魔やっちゅうのも知ったのは最近や

 ったっけ?」


 愕然とする俺の傷口に塩を擦り込むよう

な無神経な笑みだと思った。

 カチンとくるけど、つきつけられた現実

が俺に有無を言わせずに立ちはだかる。


「セシリアの両親にも会ったことないんや

 ろ?

 まぁそら会わせられへんよなぁ。

 すっかり老け込んでるはずの祖父母が同

 い年くらいにしか見えへんかったら信じ

 られへんやろう」


 そう言えば母さんはイギリスの実家に帰

ろうとか言ったことはなかった。

 日本語が喋れないからとか忙しいからと

か、そんな理由で会うのを先延ばしにされ

てきたから何か言えないような事情がある

んじゃないかとは思っていたけど。


「まぁ追放されたんやっていうし、外見だ

 けのせいやないやろうけどなぁ」

「追放…っ!?」


 聞きなれないが不穏な空気しかない単語

に思わず声を荒らげてしまった。

 クロードはそんな俺を眺めながらゆった

りと脚を組んで背もたれに背中を預ける。


「そりゃそうやろ。

 名家の娘として有力な貴族との縁談が決

 まっとった。

 でもそれを蹴り家を捨てて、人間と結婚

 したから駆達が生まれた。

 追放くらいで許すやなんて、俺なら考え

 られへんけどなぁ」


 心臓が嫌な音をたてて軋む。

 俺達の生はそういうものの犠牲の上に成

り立っていたのかと思い知らされる。

 今まで苦笑いで“また今度”を繰り返し

ていた母さんの胸の内を思うと…やりきれ

ない。

 実の親に縁を切られる、実の親を裏切っ

て異国の地で暮らす…どれほどの覚悟で母

さんはそれを決意したんだろうか。





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あきゅろす。
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