悪魔も喘ぐ夜
*
無視をされるくらいなら嫌味を腹いっ
ぱい言ってくれたほうがマシだ。
寝たふりをされるくらいなら追い払わ
れるほうがマシ。
早くいつもの兄さんに戻ってくれない
かな…そんなことを心の中で呟きながら
二段ベッドの階段を上がった。
「兄さん、ご飯の準備できたよ」
「………」
相変わらず返事は、ない。
心に苦いものが広がった。
あの日からまともな会話らしいものもな
くて、まともに聞いた兄貴の最後の言葉は
「近づかないで」。
「兄さんは…汚くなんかないよ…。
汚くなんか…ない…」
悔しかった。
それが何に対してなのかは分からなか
ったが悔しかった。
兄貴をこんなにしてしまった何かから
守れなかったことも。
そこから未だに救い出せないことも。
声が震えて、じわりと目の前がぼやけ
た。
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