悪魔も喘ぐ夜
*
そうだ。
兄貴は昔から不器用だったけれど、笑わ
ない子供ではなかった。
麗のように明るくよく笑う子供ではなか
ったけれど、ちゃんと笑える子供だった。
いつからだろう。兄貴が笑わなくなった
のは…。
1つ思い当たる節があるとすれば、5年
前。
その時、兄貴は中学2年生。
俺は小学6年生だった。
いつもより遅く帰ってきた兄貴にちょう
ど通りかかって出くわした。
無口でも口煩い兄貴がただいまも言わず
に横を素通りしようとした。
俺の見間違いでなければ、俯いた兄貴の
顔からは血の気が引いていたように思う。
「…兄さん?お帰り。遅かったね」
当時はまだ同じ部屋に割り当てられてい
たから行く先は同じ。
歩み寄ろうとした俺を振り返らずに鋭い
声がかかった。
「近寄らないで!……駆まで汚れますから
…」
大きな声に驚いて動けずにいる間に兄貴
は足早にその場を去った。
喧嘩したわけでも、兄貴を怒らせたわけ
でもないのに拒絶されたことがショックだ
ったのを覚えている。
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