悪魔も喘ぐ夜
*
ガチャ
「聞き捨てなりませんね。
そんな大事な話を、どうして僕抜きで話
すんですか」
リビングに入ってきたのは兄貴。
言葉だけはいつも通りだが、その声色に
は静かな怒りが滲んでいて、眼鏡のブリッ
ジを指で押し上げたその眼光は鋭い。
「秀っ!麗もっ!
部屋にいなさいって言ったでしょう!」
叱りつける母さんの声も鋭いが、その声
にはどこか焦りが見て取れた。
兄貴の後からリビングに入ってきた麗は
俺に駆け寄ってくると隣にドサッと腰を下
ろして俺の腕にしがみついてきて母さんを
睨み返した。
「やだっ!
ぼくお兄ちゃんと離れるのなんて絶対に
ヤダ!!」
甘え上手でいつもニコニコしている麗が
母さんにこんな顔をするのを見たのは初め
てだ。
いつもの甘えた声でも、まして癇癪でも
ない。
その目にはゆるぎない強さが宿ってい
る。
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