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悪魔も喘ぐ夜
*


「麗っ、どうしても…やるのか?」

「うん。だってこのままじゃダメでしょ?

 お兄ちゃん、お風呂まで歩いて行けなさ

 そうだし」


 麗の声に迷いはなかった。

 ついでに正論を重ねて反論を封じ込め

る。


 そこにいつも無邪気に甘えてくる麗の顔

はなかった。


「……っ」


 尊厳がどうのなんて、気にしている場合

ではないのか。

 ここは腹を括って麗にしてもらったほ

うがいいのでは…と心がグラつきかける。


「麗」

「うん?」

「タオルだけ、くれ。

 タオルだけでいいから」


 やっぱり嫌だ。


 それは兄として、年長者として、折れて

はいけないところだと思う。


「ダメだよ。

 ほら、足開いて?」


 しかし麗の意志は揺るがなかった。


「麗っ、頼むからっ…」


 情けなく声が震える。

 そんな俺の前にタオルを持ったままの麗

が回り込んできて視線がぶつかった。


「ぼくね、ずっと兄さんが嫌いだった。

 なんでお兄ちゃんにあんなに意地悪する

 んだろうって思ってたから。

 でもね、分かったんだ。

 お兄ちゃんはぼくが“いい子”でいて

 も、僕を好きにはなってくれないんだ

 って」


 そこにいるのはもう俺が知っている可愛

い麗じゃなかった。

 いつもの幼い顔を脱ぎ捨てて、歳相応…

というよりは大人びた表情を浮かべてい

た。


「だからね、ぼく“いい子”だけでいるの

 はやめにする。

 “可愛い弟”としか見てくれないなら、

“いい子”でいなきゃならない理由はない

 もん」


 …麗は何を言ってるんだ?


 頭がついていけない。

 そんな大人びた顔で、今までの“麗”を

“いい子”でいただけだと言う目の前の少

年は一体誰?





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あきゅろす。
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