団子好きに悪人なし
◎ランビと慎太郎
団子好きに悪い人はいない。
焔炎国から遥か東に位置する、古風漂う離れ小島、霧島。
そこには隠れ家的な団子屋があった。
「おばちゃーん!いつもの頼むっス」
店内を覗き込み、黒髪の青年は大きな声でそう言うと店の外にある長めの赤い椅子に腰を下ろす。
青年の名前は中岡慎太郎。暇さえあればこの店に顔を出す、いわゆる常連客というやつである。
「今日もいい天気っスねぇー」
晴れ渡る空を見上げ、足元で横になっている看板犬であろう白い犬と肩に乗る白い小鳥に慎太郎は笑みを向けていた。
すると店内から声が掛けられる。
「お待たせ、慎ちゃん。今日もサボりかい?」
そう元気はつらつとした団子屋のおばちゃんは両手に団子の乗った皿を持ち、それを慎太郎の座る隣に置いていく。
待ってましたと言わんばかりに慎太郎は三色の綺麗な団子に手をのばした。
「んんー違うっスよ、休憩時間なんス」
「ほんまかいねぇ?」
「マジっス」
それを聞いて、おばちゃんは大きく笑った。と思うと、何かを思い出したのか"あ!"と声を上げて手をポンと鳴らした。
「どうしたんスか?」
「その団子、一皿残しといてくれんかねぇ?実はお客さんが取っといて欲しいって…歳のせいか忘れちょったわぁ」
慎太郎は言われた事を理解すると頷きを見せた。
「うん、俺的には大丈夫っス。それに、ここの団子めちゃくちゃ美味しいっスから宣伝も兼ねて是非とも食べてもらいたいっス!」
「慎ちゃんは優しいねぇ、あら、でも隠れ家じゃなくなるけどええん?」
「あ…」
その時、店内から電話の音が聞こえてきて、おばちゃんは慎太郎に笑顔を向けると店内へ駆け足で入って行った。
それと同時に、足元に居た白い犬が耳を立ててある一方をずっと見つめていた。
微かに木々から落ちた枯れ葉を踏む音が聞こえ、慎太郎もその方向に顔を向ける。
すると、少女と目が合った瞬間に慎太郎は言葉を失う。
はっと気付いた時には、もう少女は自分と同じ椅子に座っていた。
「似てる…」
隣に付いていた大きな蛇は、そこにあった団子を見つけるとゆっくりと自分の頭へ乗せ、少女の所へ運ぶ。
「私が…誰に、似ているのかしら?」
団子を見ていた筈の視線がふいに慎太郎に向けられ、その桃色の鋭くも丸い瞳に慎太郎の心臓が跳びはねた。
「え?あっお、俺の知り合いっス!」
「そう」
「ここを知ってるなんて、ただの団子好きじゃないっスね」
「そう」
がくっと肩を落とす慎太郎をよそに、ランビと名乗った桃色の髪に桃色の目をした少女はペットの花子に話しかけていた。
(似てるかと思ったんスけど、鴨っつぁんとはどっか違って…女の子って感じっス。……どう接すれば)
心の中でそう思っていた時、おばちゃんの長電話で大きな笑い声が慎太郎の耳に入って来た。
(あ…!)
「ランビさん、ランビさん!」
「何?」
「団子、好きなんスか?」
いきなり元気になった慎太郎の様子にランビはきょとんとした表情で慎太郎を見つめる。少しすると、無表情に近かったランビの顔が微かに優しくなる。
「えぇ、そうね。でも、どうして?」
「え」
ランビの表情が元に戻った瞬間、はっと我に返る。
「聞いてたの?」
「はい、ちゃんと聞いてたっスよ!俺も好きなんス団子っ!」
満面の笑みでそう笑う慎太郎に、くすり、とランビは笑うと6つあった筈の団子の最後の一本を数秒の内に食べてしまった。そして椅子から立ち上がると慎太郎の方を振り向く。
「じゃあ…ご馳走様。中岡慎太郎さん」
「…え」
一瞬にして慎太郎の顔は笑っていた口から力が抜け、ランビの事をスッと見据えたのが目に見えて分かった。それから苦笑すると自分用にと膝上に乗せていた団子の皿を赤い椅子の上に置く。
「今の俺はそう。普通の団子好きな青年スよ。お姫様」
「あら…お互い知っていたのね」
「ランビさんの場合はお姫様だから、有名といえば有名っスから。それより俺の名前」
ランビは慎太郎に背を向けたまま立ち尽くし、ふっと慎太郎の方へ向きを変え、ランビは目を細め笑んだ。
「秘密、だわ」
「えぇーそれ俺的にナシっス!」
「それじゃ、失礼」
そう言い終えて、慎太郎が彼女達の背を見送った後、長電話に終止符がついたのか元気な声が慎太郎の耳に再び響く。
「慎ちゃん!今また材料が届いたから、ちょっと待っててちょーだいね!」
「はーい!」
次に会った時は………
その互いの心の想いは、秋風の風だけが知っている…−。
-END-
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