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城の前まで来てみれば、門番も、厳重そうな大きな扉も…彼が被っていたあの被りものを外しただけで通してくれる。

ラオン族には貴族関連の人、つまり華人が多いと聞くけれど

彼は一体…−何者?


そんなことを考えている間に部屋に到着したのか、彼はマントや被りものを外すと純白に金色が加えられた、見るからに高そうな椅子に座り、自分が座る椅子も用意して待っていた。

何も考えず、ただ彼を見てその椅子に座る。
にしてもシャンデリアや広いバルコニー、窓を通して見える広大で自然的な外の景色、この部屋といい城といい…彼は。

「そういえば君の名前、まだ聞いてなかったよね」

周囲を見ていた目を彼に向けると、
ここに来てやっと彼の顔を見ることができた。……青薔薇の名に相応しい容姿。
紺碧の長く流れるような髪にうっとりした顔つきの中に見覚えのある感覚を得た。


「僕は、シェスタ・ラズドールといいます、シェスタでいいです。…貴方は?というか何者ですか?」

「街での名前はラレ、本名はタクティクス・レグルス。こう見えてここの王子、レグルスって呼んでくれれば俺はそれでいいから」

やっぱり…ただ者じゃなかった。


「では王家の…息子さんなんですか?タクティクスという名前はシリウス師匠にもありました」

「今は王家、な感じだね。…シェスタは父さんのことを知ってるの?」

「昔、ちょっと…」

「シリウスを師匠呼び…か。あんた俺とは初対面、だよな?」

部屋の入口で壁に背を預け、腕組みをしてこっちを見ていた彼は僕の眉間にシワを寄せた。

見た目からして分かる、レグルスとはどう見ても釣り合わない黄緑色のヤンキー風な髪に、細めに余裕そうな同じ黄緑色の眼。その人物と目が合ったと思った時無意識に僕はレグルスの後ろへ一歩足を動かす。


すると、左手の指先がそっとレイピアの型に近い剣の柄(つか)に触れる−。


「キミがもし僕の言う師匠の愛(まな)弟子なら、一度手合わせを願います…」


頭の後ろに手を回した彼はきょとんとした顔で首を傾げ、レグルスに"なんで?"とアイコンタクトを送る。
そのあと一息ため息をつく。

「悪ぃけど、初対面でいきなりやり合うってのは俺的に無理。それに俺にとってあいつは……もう師匠じゃねぇしな」

そう言って肩をポンッと軽く叩かれると、また眉を寄せて馴れ馴れしい彼の姿をじっと僕は睨む。

そんなこともお構いなしに、レグルスの座る椅子の後ろに彼はだらーん、とだらける。

「あ、レ〜グちゃん。そういや、また街に出たんだって?さっき来たとき居なくってさー今度行く時は俺も連れてってくれよな」

「うん、分かった分かった」


困り顔で笑いながらそう言うレグルスとそれを聞いて万歳している彼を見るなり、僕は目を背けた。

そうか、レグルスが誰かに似ていると思ったら、シリウス師匠がお父さんだったのか。

いや…違う。

もともと神木から生まれ落ちた華人には親が居ない。

それより…このパッツンの彼もシリウス師匠のことを知っていた。もしかしたらこの人も…。


まだ 僕はラオン族を知っていても、この人達の事をよく知らない。
調べていた自分自身、本当に存在する人達のことなのかと誰かが真実だと口にしてもそれを僕は疑っていた程の人間だ。

でも、その答えが
現に目の前に存在している。

本当はシリウス師匠が亡くなったと聞いてこの国に帰ってきただけの筈だった。
シリウス師匠と繋がりのある人達…

「僕は人間が嫌いだった、だけど 今僕はキミ達一族を護りたいと思うんです」


パンっと手を鳴らす音が部屋に響き、驚いた表情をするとまた彼が笑ってこっちを見ていた。


「つまりは後々みんなに紹介してけばそれでいいだろ?レグちゃん」

「族の頭首のラオンがこう言ってる訳だし、俺もいいと思う」

「族の頭首…キミの前でなら、僕は僕を欺かなくて済む。どうかここに居させて下さい」

そう言ってお辞儀する自分を見た二人は改めて顔を見合わせると、ちょっとしてから同時にまた笑う。


「…ラズの眼を見てると自分が重なるんだよなー、なんでだろ」

え、どうして僕の名前を?
そう言おうとする前に違う言葉が頭の中に過(よ)ぎる。

「ラオンも…オッドアイだからじゃ、ないですか」

その言葉にラオンは一瞬ぴたり、と動きが止まった。
と、思うとまた口の端を上げ余裕そうな表情を僕に向ける。

「まさか…。まぁラズとは左右逆だけど色は一緒だし」

"またゆっくり話そうぜ"
ニカッと笑う彼に、その師匠の孤児院が今どこにあるのか僕は彼のそんな目を見れずに聞いた。



今気付けば、あの頃に比べてこの国には建物が多くなっている気がする。それはそれでなんだか悲しい気持ちになる…。



この世界にはお墓なんて物はないから、とりあえず花だけ供えたいとレグルス達に許可をもらい、持って行かせてもらった。


形も残らず…光となって空へ消えていく…−。




この人達との巡り逢わせも
貴方のお陰なら尚更伝えたい…


「ここが、孤児院。今は使われてないけどそのまんま残ってるんだ…」


ほんのり抱いていた貴方への気持ち

あの別れの日 言えなかった言葉


「あ…ラズ、泣いてんのか?」

「そんな事、ない、です…」

「うーそつーくなー」

「痛っ!頬抓らないで下さいっ」

貴方と過ごしたこの小さな孤児院の前、

“ありがとう、だいすきでした”その言葉だけ置いていく。


また いつか どこかで…
誰かを通して


貴方に出会えますように。


-END-

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