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師匠と愛弟子
◎シェスタ

僕が信頼したあの人を…どうしてキミは恨んでいるのですか−…?

夏の訪れを感じ始めた頃、青年は肩より少し長く伸びた髪を片手でさらりとそよがせ、ほてった首元に風を通す。

橙かかった朱色の髪に覗き込めば吸い込まれてしまいそうな青と黄緑のオッドアイ。
そして何より、歩く姿でさえ周囲の雰囲気を通り裂くよう紳士的で高貴的な印象を備え持つほどの容姿端麗である。
青年の名前はシェスタ・ラズドール、彼は下を向き力無さげに口を動かす。


「…どうして花は生きているのに…」


宛もなくシェスタは南の国、花の国ラレの街中に植えられた色とりどりの花達を見ながら歩き続けていた。

「シリウス師匠が亡くなったなんて…信じられない」


シリウス師匠。かつてシェスタがこの国を旅立つ時、技法や護身術を伝授してくれた…シェスタにとって先生であり師匠であり、人を信じる事の出来なかった自分が唯一信頼できた人物であった。

そのことを耳に入れ、旅の途中だったが…いても立ってもおられずこうしてまた始まりの拠点に戻ってきてしまったというところである。
この国に来るまでに軽く剣先が錆びてしまった。幾多の相手と剣を交じり合わせても、性格からか絶対にとどめはささなかった。自分自身、人を危める主義ではない。

途端、俯きながら歩いていたシェスタの腕が掴まれ、体が急激に後ろへ引き寄せられた。
今まで表情を変えず歩いていたシェスタの表情が一気に青ざめ、一変する。


「僕に気安く触れるな…っ」


掴まれた手を振り切り強く押されたと思うと、あろうことか自分の上にその人物が覆いかぶさっていた。

「ちょっ…!!」

「伏せてて。君、狙われてるみたいだから」


声質からして、その人物は普通の人とは違う何かを感じた。顔を覆う、まるで自分を隠すような深い被りものを被っていたからか、はっきりと顔を確認できなかった。

そんなことを考えるのもつかの間…

彼の後方に控えていた二人の兵士が自分を狙っていたであろう人物を手際よく束ね、驚きの早さで拘束していた。
ところで……


「すみません、街中でこんな体制のままいるのは御免なのでそろそろ…」


よくよく考えてみれば、自分は街中の地面に仰向けになり真正面を向けば綺麗な青空をバックに彼の顔が僕の視界の半分を占めていた状態で…。
端から見れば…異様な光景といったらこの上ない。


「あ、ごめんなさい!でも…君が本当無事でよかった」

とはいっても、こんな見ず知らずの僕を庇うために…どうしてそこまで

(頼んでもいないのに、)


本人は相変わらず笑顔を絶やさないでいるけど

体まで張って自分を助けようとしてくれた事に変わりはない。


「…助けて下さってありがとう、ございます」

「どう致しまして」


その人物がそう言って微笑みながら顔を少し傾けた時、キラリと光った左耳の青薔薇の耳飾りにシェスタは目を疑った。

小さい頃に、その者達の話をちらりと聞いた事があった。

華族という名の存在…神木に宿る生命の存在。花が枯れた時までという限られた寿命…

「あの、俺の顔に何かついてます、か?」


「え…いや。ごめんなさい、少し昔の事を思い出していて」

ふと我に返り、手を顎に添えると彼は"そうなんですか、"と笑って答えていた。

どうやら僕の旅の目的は、スタート地点にあったらしい。

初めはただ単に花が好きだったからいろいろと調べていたというだけで、ラオン族という一族を知ったのは今から数年前のこと。

「キミ達のことはよく知っている、青薔薇の耳飾り…素姓を隠すその大きな被りもの」

「わ、ちょっと待って!それについての話は場所をかえて聞かせてもらいたいな」

あ、そうだった。
こうして素姓を隠しているのに彼の身分をここで口にしてしまえば、たちまちここは彼を一目見ようと人が群がってくるに違いない。


「その時は僕が護りますから」

「え?」

「あ、いえ…何も」

シェスタの顔は不意に斜め下を向く。

もともと行く宛のなかった自分はただ彼を頼るように彼の隣を歩いて行く、と、花の国ラレの中心部にある城へとだんだん近づいていった。

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あきゅろす。
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