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鈍感先生と絶望先生
01


「私なんて生きていてもしょうがない人間なんです。恥の多い生涯を送ってきました」


淡々と悩みを語り出した望に蘭乃と智恵は顔を見合わせた。
此処はカウンセリング室。
生徒の悩みの相談にのってあげる場所。

「…あの糸色先生、ここは基本的に生徒たちの相談室なので…」

言いにくそうに口を開いたスクールカウンセラーである新井智恵先生の言葉に望は呆然とした。
悩みは聞いてくれないらしい。

しかし、偶然ココに居合わせた蘭乃がそこで慌ててフォローに入った。

実は蘭乃が居る時をわざわざ狙って、望がココに訪れたという事を蘭乃は知らない。
智恵の方は感づいているかもしれないが…

先日から少しでも仲良くなれるようにと、
望は蘭乃とのコミュニケーションの機会を作るのにご執心なのだ。


「えと……深刻な悩みでしたら、私でよければ悩み事を聞きますよ?
お役に立てるかは保証できませんが」

「蘭乃さん…!!」

「…ね?智恵。
相談、のってあげるよね?」


蘭乃が苦笑い気味に励ましてあげただけで喜ぶ望を見て、智恵はこの人もか…と思いつつ隣に座る蘭乃をチラリと見た。
この子は無意識にスルーすることが多いが、この子にアタックしてくる男は多い。
望に蘭乃を落とせるかどうかは分からないがその道は決して容易ではない事は明白。

智恵は哀れみを込めた視線を望に送り、
せめて相談くらいは聞いてあげる事にした。

(本当に死なれたら困るし)


「まぁ蘭乃が言うなら」

「ありがとう、智恵。
良かったね、望さん」

(名前呼びは突破したのか…)

案外見た目とは裏腹に手の早い望にちょっぴり驚いた。
短時間で蘭乃と名前で呼び合うとは…。望は嬉しがっているが、蘭乃は気になんてしてないみたいだけど。哀れね。

智恵は思考を中断して相談に乗ってやる。

「で、今日は何で死にたくなったんですか」

「私の心が汚れているから、神聖なるスポォツもまっすぐ見れないんです」

二人は続きを促す。

「今年は職業野球に興じてみようと東北の新球団を応援することに決めたのですが…」


「毛にしか見えないんです!!あの帽子のマーク!!」


望は声を荒げてそうのたまった。
それを受けても智恵は真顔である。
が、蘭乃はショックを受けた。

(…全然深刻じゃないでしょ、ソレ……)



「あれは、Eに羽根が生えたデザインだと思いますが」

と、智恵。蘭乃も必死に隣で頷く。


「私の心が汚れているから天使の羽根さえも薄汚い毛に見えてしまうのです。
山下元ヘッドコーチがあれをかぶっていると切なくて、切なくて……」

「毛をかぶっているから?」



毛のない者が毛をかぶる。
その場面を想像しているのであろう、望は青くなる。
蘭乃も望の発言を受けて共に想像する。
うわ〜、ブルーな気持ちになってきた。
ごめんなさいとしかもう言えない。

(もう平常心で試合を見れない……
絶対にフィルターをかけてしまう)

蘭乃は望の相談にのった自分を少し後悔した。

(次は相談にのるの遠慮しようかな……)


蘭乃にそう思われているのも気付かずに望は心が晴れたと清々しそうにしている。

蘭乃はちょっとだけうらめしそうに望を見つめたが、そんな視線に気付いた望は蘭乃に見つめられて頬を染めるだけ。


(……二人とも子供ね)

どこまでもすれ違うお子ちゃまな二人に智恵は溜息をついた。



  

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