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鈍感先生と絶望先生
02


「おはようございます。
今朝も中央線がとまりましたね」



…………

……



クラスの空気は一気に重くなった。

…別に暗い話題でもないけど望さんの口から話されるとなんだか…と、蘭乃。

相変わらず、蘭乃は後ろの椅子で望の監視という役割を果たしていた。
前回の担任逃亡事件をうけ、校長から副担任枠を正式にあてられてしまったのだ。HRぐらいは監視をしろ、とのことだ。勿論、養護教務を優先との御達示だけど。
しかし、それを話した時のクラス及び望さんの喜びようといったら……凄かった…
何故だかはわからなかったけれど、
凄かった………


すると、
教室のドアがノックされプリントの束が望に寄越された。
望はその紙に目を通す。
どうやら進路希望調査書の用紙らしい。

「プリント配りますから、第一希望から第三希望まで書いて提出してくださいとのことです」

望はその進路希望調査に目を通す。

「進路………希望…」

望さんがプリントを眺めてぶつぶつ何かを言い出した。

(嫌な予感が……します…)

不安そうに蘭乃はその教師を見守る。


「………希望…………
………希望なんてない!!
世の中にあるのは絶望だけです!!」


望がまた偏った主張をし出した。

「希望を抱いていいのは中学生までです。
高校生にもなったらそろそろ自分の限界を知らないと……
進路希望調査の代わりに
進路絶望調査を行います!!
第一絶望から第三絶望まで書いて下さい!」


教卓を叩きながら熱く語る姿はとても格好よいと思うのだが、教師としてはいただけないのでは?

蘭乃は助けを求めるような目で後ろを振り返る生徒達に苦笑いを返すことしか出来なかった。
毎日毎日絶望発言を繰り返す望を何度止めても無駄だと分かったからだ。
それに客観的に自分を見つめ直すのは悪くない。可能性を潰すやり方は良くないが。

望のいたって真面目な様子に、あくまで副担任の立場である蘭乃は担任である望の教育方針に任せることにした。
そして、絶望調査に対する蘭乃の反応を挙動不審で窺っている望に眉を下げながら笑みを返す。望が生徒達に現実を突き詰め過ぎない事を願って。

蘭乃の了解を得てほっとした望は絶望調査を進める。


「ど、どーやって書けばいいんですか?」

「将来絶望的だと思える進路を上から順に3つ書いてくれればいいんです」

望はキョロキョロ教室を見渡す。

「たとえば君!!
見た目このクラスではいちばん勉強できそうですが……」


 第一希望 東大

 第二希望 京大

 第三希望 一橋


「絶望的だ!!!」

「ひどい!」


望はバッサリ言い切った。

来年の受験生になんてことを…
どうも望さんはオブラートに包むという事をしないらしい。
これは懸念していた言い過ぎではないか。
どうも雲行きが怪しい…。
望さんに任せて良かったのか。

蘭乃は不安になってきた。

さらに、
ひどいと言ってきた衝撃を受けて青い顔した生徒に望は問う。


「じゃあ君は東大いけるんですか?」

「た…たしかに絶望的ですけど」

「じゃあ間違いないですよね」


望は真剣な顔で言い放った。
それが決定打。


「蘭乃先生ぇ〜〜」

「……よしよし」


生徒は半泣き状態で蘭乃に泣きついた。それに蘭乃は優しい顔で慰めている。


「なっ!」

(蘭乃さんに泣きつくなんて…!!)


望はその後、嫉妬など感じていないフリをするために生徒たちの絶望調査をどんどん仕上げていく。
が、その度に蘭乃の慰める人数が増えていっただけだった。


泣き出し、絶望する生徒達。
もうクラス全員が絶望に平伏すのか希望はないのか…!!
そう思われた時――


「世の中に絶望的な事なんてありません」

みんな現実を見せられて沈むなか、挙手をする生徒。

「努力さえすれば希望は必ず叶います!」

「またあなたですか」


それは超ポジティブ少女風浦可苻香だった。


「さすが可苻香ちゃん!前向きなのね」

そんな蘭乃に嬉しそうに笑顔を向ける可苻香はクラス全員にとって希望の光に見えた。

対して可符香の登場を喜ぶ蘭乃に望はチラリと視線を動かす。
すっかり悪者にされてしまったなぁと後悔するも、今更引けない、と半分自暴自棄になって自分の意見を推し進める。


「…じゃあ、君は東大に入れるというのですか?」

「がんばれば可能です」

「っ!!」


まさかの肯定。


「じゃあ総理大臣にもなれるっていうんですかっ?」

「可能性はあります」

「じゃあ君にとって将来なるの絶望的なものは無いというのですか」

「うーん」


クラス中の視線は考え込む可苻香にくぎづけである。


「もしかして、無いの?」

「いやだなぁ、蘭乃先生
さすがに私にもなるの絶望的なもの、ありますよ」

蘭乃と望は顔を見合わせた。





   

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