04
『あ、先輩』
小走りでこちらに近づいてくる影に目を向けると、それは紛れもなく忍足先輩のもので。
「すまんな、待たせて」
『いえいえ』
申し訳なさそうに謝る先輩に、何だかこっちが罪悪感を覚える。
(駄目だ、先輩のことが好き過ぎて)
「ほな、行こか」
『はい』
うなずいて、ふたり並んで歩きだす。
先輩が話し掛けてくれたりとちょっとした会話をして笑いながら、普通の恋人みたいな帰路についていた。
けど、その間もずっと俺の緊張の色は褪せずに。
ぎこちなく返事をしたり、笑ったり、そんな感じだった。
(先輩には気づかれてないといいんだけど、)
「…緊張、してるんか?」
『え、何でですか?』
「いや、いつもみたいに喋らへんから」
少しだけ困ったような表情を浮かべて話す先輩に、隠し立てする必要もないかと思い素直に気持ちを紡ぐ。
『…多分緊張してますね、俺』
「何でや?付き合うのが初めてとか、そういうわけやないんやろ?」
『違いますけど、』
忍足先輩ほど経験は多くないけど、
でもそんなことじゃなくて。
『忍足先輩だからですね、きっと』
「俺だから?」
『えぇ。正直、まさかこんな日がくるとは思ってなかったんですよ』
ゆっくりと、けど確実に今の気持ちを正直に打ち明けていく。
『あの忍足先輩の隣にいられる日がくるとは思ってなくて』
「あの忍足先輩って何やねん」
呆れた顔で、でも少しだけ笑いながらそう聞く先輩。
『だってめっちゃモテるじゃないですか』
「そんなことあらへんで?」
『あります。だから、』
言うか言うまいか迷っていた本当の気持ち、
本当は、嬉しさと同時に不安でいっぱいなんだ。
『だから俺なんかが忍足先輩の横にいてもいいのかなって』
「何言うてんねん」
盛大なため息とともに紡がれた言葉は。
呆れたような、そんな声音。
「俺は飛鳥方が、いや、漣が好きやから好きやって言った」
真剣な眼差しで俺の目を見つめる先輩の視線を真っすぐに受けとめて、俺も真剣な表情でその言葉を聞いていた。
「好きなら何でもえぇんとちゃう?好きなんやろ?俺が」
『…好きですよ、大好きです』
「ならえぇやん」
あぁ、そうなのかもしれない。
隣にいるのは好きだからで、好きに理由なんていらないんだ。
『そ、ですね』
「緊張とかなしやで?肩の力抜きぃや」
『…はいっ』
本当に、
先輩はいつだって俺が一番安心できる言葉をくれるの。
あなたの隣はこんなにも心地よい。
だからどうか、ずっとずっとあなたの隣にいさせて――――…。
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