02
「…そこ、いちゃつくな」
と、そんな俺たちを見るに見かねてか不意に跡部先輩がそう指摘する。
その声音から察するに、相当不機嫌な様子だ。
「なんや跡部、嫉妬か?」
「違う、気が散る」
ニヤリと口角を上げて、からかうように聞く忍足先輩に跡部先輩は短くそう答える。
結果的に、忍足先輩の一言が火に油を注ぐことになってしまったわけで。
…何という険悪な雰囲気、
「忍足さんと漣くん、付き合ってるんですか?」
『…ぶっ』
そんな雰囲気を知ってか知らずか、長太郎くんがおかしなことを言うので盛大に吹き出してしまった。
『長太郎くん天然過ぎ。そんなわけないでしょーが』
本当に、
天然が故の爆弾発言だなぁ。
俺と忍足先輩が付き合っているだなんて、
ありえないから。
だって先輩はかっこいいし優しいし、跡部先輩に引けを取らないくらいモテる。
だから。
どんなに俺が忍足先輩のことを想おうと、俺が先輩の隣に立てる日なんて一生こないの。
「そうかな?すごく仲がよさそうに見えたから」
「そうだぜ侑士。付き合っちまえよ」
いつの間に来たのかはわからないが、自然と会話に入り込む向日先輩と、
「岳人、悪乗りが過ぎるで?」
それを諭す忍足先輩。
兄と弟みたいだな、なんて。
「なんでだよ。お似合いだぜ?お前ら」
「そうですよー忍足さん」
「いや、だからな…」
しかし何なんだ、この人ら。
何でそんなに俺たちをくっつけさせたがるんだ。
も、いい加減忍足先輩も困ってるから。
本当にやめてほしい、ありがた迷惑。
「漣はどうなんだよ?」
『…ほぇ?』
向日先輩の突然の言葉に、思わず間抜けな声がでてしまう。
「好きなのか?侑士のこと」
『え…、』
好きか、なんて。
そんなの好きに決まってる。
でもさ。
駄目なんだ、俺じゃ。
だから、そうわかってるからこの想いには区切りをつけたのに。
「おい、」
突然の呼び掛けに驚いて振り向けば、そこにいたのは跡部先輩で。
「好きなんだろ、忍足が」
『な…っ』
何のためらいもない跡部先輩の言葉に驚くことしかできない俺。
そんな俺をよそに、先輩は言葉を続けた。
「だったらとっとと言っちまえよ、鬱陶しい」
何を、言ってるの。
俺の忍足先輩への想いはもうとっくに…、
「忍足も鬱陶しいんだよ。さっさと言っちまえ」
忍足先輩はその言葉に大きく目を見開き、すぐに呆れた顔を見せた。
「…はぁー、ホンマに。なんちゅーことしてくれるんや、お前らは…。…ま、えぇか」
ため息をつきながらそうつぶやく先輩。
一呼吸置いてから静かに俺の名前を呼んだ。
「飛鳥方?」
『へ?』
「好きや」
『……っ』
あまりに真剣な目と声音に、俺は目を背けることも言葉を紡ぐこともその場から動くこともかなわなかった。
「ずっと好きやった」
『あ、の…』
あまりに衝撃的過ぎる事実は、俺の頭の中にいまいち溶け込まずにふわふわと宙を舞って。
これが現実なのか、そうじゃないのかもわからないくらいの衝撃だった。
「…飛鳥方の気持ちも知りたいんやけど?」
『え、と…』
自分の本当の気持ちを言ってしまえば、もう元には戻れない気がした。
本当に、言ってしまってもいいのか。
言ってしまえば今のようにただの先輩と後輩という関係はもう手に入らないかもしれない。
それでも、
やっぱり俺は先輩が好きで。
それに、せっかく跡部先輩がくれたチャンスだから、
『俺も、先輩のこと、好きです』
「…そーか」
俺の言葉にふわりと微笑むと、続けて言葉を紡いだ。
「なら、付き合ってくれるか?」
『…あ、はい。もちろん、です』
断る理由なんてない。
これが本当に現実なのか疑わしくなるくらい幸せな事実。
こんな日がくるなんて思ってもみなかったけど、
でも今は、素直にこの現実を受け入れて笑い合おう、そう思う。
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