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01



転校初日を特に何のトラブルもなく過ごした俺は、今現在で転校2日目になる生活を満喫していた。

…わけもなく。
実際は存外つまらない授業に飽き飽きとしていた。ちなみに今日の授業は全て出席し、尚且つ居眠りもしていない。それだけでも褒めてもらっていいくらい頑張ったと自画自賛。



『(…暇。せっかく授業出たのにホントつまんない)』


すでに全て解き終えたプリントの数式をぼんやりと眺めつつ内心で悪態をつく。
ふと横を見ると気持ちよさそうに眠る切原くんの姿が視界に映って、好奇心でそのままプリントを覗き込むとやはりプリントは真っ白のままだった。
しかしながら、あんなにも幸せそうに寝ているところを目撃してしまえばいささかこちらまで眠たくなってくる。が、いや、ここで寝てしまえば今までの努力は全て水の泡じゃないか、と幾度となく自分に言い聞かせながらなんとか意識を繋ぎ止めている状態であった。


しかしそれもたった数分間の戦術で。気がつけば知らないうちに頬杖をついてウトウトとしてしまっていた。
あぁいけないと思い始めて意識が完全に覚醒すると、俺の横には憤慨気味でまじまじとこちらを見つめる数学教師がひとり。なんだか地味に気持ち悪いなと、ぼんやりそう思った。



「飛鳥方くん、先ほどから寝ているようだがプリントはやっているのか?」

『すみません、少し寝不足で。それと、プリントなら終わっています』


何なら答え合わせもどうぞ、と付け足して、してやったり顔でプリントを差し出す。もちろん向こうに表情はわからないだろうけど。
まぁしかし、その見た目通り勉強もそこそこできる俺はこの程度の数学なら何の問題ない。



「う、うむ。しっかりやっているようだな。ならいい」

『ありがとうございます。すみません、今度からは気をつけます』


優等生的にそう謝れば、教師は何事もなかったように去って行った。その背中を見送りながらなんとも情けない教師だなと思ってみたが、あぁそれは俺のせいかと内心で苦笑した。



「よし、プリントを回収する。うしろの奴、集めてこい」



それでもなんとなく居心地が悪くなったのか、予告していた5分前だというのにプリントを集めると言い出す教師。まぁ、ほとんどの生徒はすでに終わっているだろうから別にいいんだけど。
しかしながら残りの時間を教師の昔話だとか、これから社会に出るためには何が大切かと題してただの固定観念を押しつけられたりだとか、そういう無駄でしかないことをし出すからクラスのほとんどの生徒はため息をついて帰りの準備をしたり、眠りについたりとそれぞれの思うままに行動していた。ちなみに俺は無論後者。
そうこうしているうちに今日最後の授業は幕を閉じたのであった。









――――――




「日直、号令」

「きりーつ、気をつけ、さよーならー」


何とも気の抜けた挨拶だな、と思いつつも別にそれを不快には感じないので動かしている手は止めずに帰りの準備。本来ならホームルームの時間にするはずだったのだが、数学の時間に意識を手放してからそのまま起きることなく今に至る。

全ての教科書をしまい終わり、帰ろうかなと席を立つととなりにはすぅすぅと寝息をたてて未だに起きようとしない切原くん。確かテニス部だって言ってたはずなんだけど、部活には出なくていいのかとなんとなく気になってしまう。


遅れたりすれば部長に喝を入れられるはず。切原くんならそれは何としてでも避けたいんじゃないかなぁとひとりで勝手な予想を立てる。教室の窓ガラス越しにグラウンドを覗き見れば、案の定テニス部らしき部活の練習はすでに始まっていた。
こうなるとなんとなく放っておけないのが俺の性格で。



『切原くん、もう授業は終わりましたよ』

「んー…」

『切原くん、切原くん』

「んー」


あぁ、なかなか起きないタイプの人か。こういう人って何やっても起きないんだよな、とため息をつきながらもここまできたら絶対に起こしてやろうと意気込んで切原くんの向かいの席に座る。
じーっと寝顔を眺めると、何故なのかはわからないが無意識のうちにふわふわとした髪の毛に手を伸ばしていた。

うわ、ふわっふわ。すっごい気持ちい、と内心で子供みたいにはしゃぐ。よくよく見れば顔も整っているし、テニスも強いと言っていたから女の子からの人気は相当のものなんだろうなと改めて実感した。
しかしこの髪、予想以上に触り心地がいいなぁ。なんだか病みつきになりそうだと思わず笑みを零した。







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