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01 side.切原赤也 「飛鳥方」 『何ですか？』 俺が声をかければ、返ってきたのはこれまた丁寧な言葉で。 (こーゆータイプってあんまり得意じゃないんだけど) 「俺、切原赤也。よろしくな」 『よろしくお願いします』 「…なぁ、敬語は使わなくていいぜ？同い年だろ？」 『あぁ、これは。俺のくせみたいなものでして』 少し困ったような素振りを見せてからそう言う彼をまじまじと見つめる。 うん、まぁとりあえず目が見えない。が、輪郭のラインとか鼻筋とかは整っている気がしなくもない。それと異常に色白。 …女みてぇ、なんて思ってみたり。いや、でも目が見えないからなんとも言えない。 それと、意外だったのは一人称が“俺”だってことだ。こういうタイプのヤツってたいてい僕とか私とかだよな、という勝手な先入観が俺にはあったからなんとなく意外だった。 「そうなのか？」 『はい、ですからお気になさらずに』 あ。今少しだけ笑った、気がした。あくまで気がしたってレベルだけど。 どことなく柳生先輩に似てるな、とか思ったりするのは俺だけだろうか。 「ところでさ、飛鳥方は部活とか入んないのか？」 『今のところ入部する予定はありませんね。切原くんはどこかの部に入部しているんですか？』 「あぁ、テニス部。立海の二年生エースとは俺のことだぜ」 『二年生エースですか。それはすごいですね』 感嘆の声を漏らす飛鳥方に、俺は得意気に笑ってみせた。悪い気はしないしな。てかむしろ嬉しい。 テニス部の先輩たちって俺のことからかうばっかで全然褒めてくれねぇし、周りのヤツらも幸村部長とか真田副部長とか柳先輩ばっかに目を向けるし、それにすっげぇモテるのは部長とか仁王先輩とか丸井先輩だし。 よく考えたら俺ってあんまりいいとこない。 「アンタ、テニスできるか？」 『人並み、ですかね。あまり得意ではないです』 人並み、まぁ普通ってことか。 確かにコイツがスポーツやってるところってのも想像しにくい。いかにも勉強してますーって容姿だし。 でもまぁ実際、部長も柳生先輩もテニス部で尚且つすっげぇ強いし、人は見かけによらないもんだなとひとりで勝手にうなずいていた。 「そっか。じゃあ暇な時にでも見学しにこいよ」 『えぇ、是非』 一通りの会話を終えると、クラスの女子がこちらに近づいてきていた。 (ちなみに眼鏡に三つ編の地味目な女子だな) その女子は飛鳥方と俺の前で立ち止まり、何をするでもなくただもじもじして俺たちをちらちらと見ていた。 さっさと話しかければいいのに、と思う。こういうヤツって面倒だからあんま好きじゃない。 『俺たちに何か用事ですか？何でもお聞きしますよ？』 さすが優等生、というかもうむしろ紳士の域だ。本当に俺と同い年か、と疑いたくなるほど紳士的な振る舞い。 俺には絶対にこんな大人な対応はできない。もしかすると俺が子供なだけかもしれないが。 「あ、あの…、飛鳥方くん」 『何かな？』 そんな飛鳥方になんとなく劣等感を感じてしまって、口をとがらせながら横目でその光景を見守る。 あぁ、やっぱ俺が子供っぽいだけなのかと改めて実感して、余計につまらなくなった。 「飛鳥方くんは氷帝から来たんだよね…？」 『えぇ、そうですよ』 「えっと…テニス部のレギュラーと関わりとか…、あった？」 あぁ、なるほどな。 氷帝のレギュラー陣とお近づきになりたいわけか。いくら成績がよくない俺でもそれくらいの予想は安易につく。 てか立海より氷帝かよコイツ。これだから女は、と内心で愚痴を零す。 『あぁ、そういうことでしたか。すみませんが、全くもってありませんよ。メールアドレスはおろか、ちょっとしたプロフィールも知りませんし』 「あ、あ…。そうだよね、ご、ごめんなさい」 『いえ。こちらこそお役に立てず、申し訳ありません』 「違うの…！悪いのは私だから…。あ…、それじゃあ」 今にも泣き出しそうな表情でそれだけ言うと、急ぎ足で友達のもとに去っていく。 あぁそうか。あの友達に聞いてきてって言われたわけか。可哀相にな。 …これだから女は、と単なる俺の偏見に過ぎないのだが再びそう思ってしまった。 と、不意にガタッと音がして何事かとそちらに目をやると、先ほどまでは座っていた飛鳥方が立ち上がっていた。 「どっか行くのか？」 『えぇ、屋上に』 「屋上…って。サボりか？」 『いえ、ちょっとした休憩ですよ』 「いや、完全にサボりだろ」 『休憩です』 あくまでにこやかにそう言うと、俺が引き止めるより早く廊下に向かって歩き出していた。止めても無駄かと悟った俺は、ため息をつきながら飛鳥方の後ろ姿を見送る。 途中、ドアの近くにいた先ほどの女子とその友達と目が合ったらしく、そこで立ち止まる。 「あ、あの…さっきはごめんなさい。私が…」 『いえ、お気になさらず。あなたのせいなどではありませんよ』 それにも紳士的な振る舞いで。頬を染めるその女子になんとなくつまらなくなって飛鳥方から目を背けた。 (しかし来た瞬間からサボりって…。優等生なんだかわかんねーな…) ［next#］ [戻る]  |