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09





「……、」



幸村に頼まれるがままに漣のもとへ向かう。



素直に了承してしまったが、どうするべきか。
俺から「マネージャーにならんか」と言ったところでアイツが素直にうなずくとは思えない。

かといって幸村に逆らうのは色々と危険過ぎる。
(漣はお気に入りらしいから何もしないだろう。が、俺には何か恐ろしいことをしてくるに違いない)







それに、漣をテニス部に置くのはどうなんだ。
あの面子の中に置いておいても安全か?
否、そこらの野良犬たちの中に置いておくよりもテニス部にいた方が幾分か安全かもしれない。

あんな真面目な生徒を演じているせいなのか意外にも不良に絡まれやすく、また、幾度か漣が不良に絡まれているというようなことを赤也の口から聞いていた。





何度巡らせても終止符が打たれることのない思考になんとなく苛立って、やり場のない気持ちをひとつのため息にのせて吐き出す。




「…はぁ」


たった今ついた大きなため息は空気中に放たれて行き場をなくし、雲ひとつない空にそのまま溶けてなくなった。





『わ、仁王くんひどい顔』


ひょっこりと現れる人影に目をやれば、言わずもがな眉をひそめる漣の姿。




『ちょ、大丈夫?』

「何がじゃ?」

『顔』


いたって真面目な表情でためらいもなくそう言う漣に、どうしようもない呆れとちょっとした悲しさが込み上げてくる。



「…失礼ナリ」

『あー、ごめんごめん。いや、すごい考え込んでたから大丈夫かなって』

「おー…、そういうことか」


始めからわかってはいたが。
コイツは人を傷つけるようなことを簡単には言わない、はず。
(その素直さとちょっとした天然でプチショックを与えることは多々あるがな)




『悩み事?』

「ま、そんなところじゃ」

『…俺でよければ聞こうか?』


心配そうに顔を覗き込んだ後、裏庭の草原に空を見上げる形で寝そべる俺の隣にすっと体育座り。
その背中の小ささに思わず笑みが零れそうになるのを必死で抑えた。




『で、どうしたの?』


ためらいがちにそう聞く漣に、未だにどうしていいのかわからない俺はとりあえず現状の3分の1くらいを伝えることにした。




「あぁ、ちょっと幸村に頼まれ事をな」

『え、それが悩みなの?』

「まぁな、ちょっとばかり大変な頼まれ事なんぜよ」


マネージャーになって欲しい、なんて率直に言えるはずもなく。
どうしたらやってくれるだろうかと、相変わらず空を眺めながらぼんやりと考えていた。




『手伝おうか?』

「…いいのか?」

『うん、幼なじみの頼みなら』


笑ってそう言う漣になんとなく罪悪感を覚えたが、そんなものは見てみぬふりで。

と、いうか。
そもそも幸村が漣をマネージャーにしたいと言ったその瞬間から、もはやその道しか残されていないのだ。
だから俺は悪くない。
そう、俺は全くもって悪いことなんてしていないのだ。





「なら、とりあえずテニスコートに言ってから話すかの」


そう言って上半身を起こせば、



『…え、なんか怪しい』


先ほどの笑顔と不安が入り混じった何とも言えない素直な表情で俺を見上げる漣。
まるで俺が悪者のような、そんな錯覚に陥りそうになる。




「何がじゃ?」

『テニスコートに行くと何か恐ろしいことが待っている気がする、』


それはあきらかに怪訝そうな表情と声音。
まずいな、まさかここまで勘が鋭いとは思っとらんかったから。




「そんなことない」

『そんなことある』

「そんなことな…」

『ある』


頑なにそう言い張る幼なじみに、どうしても幸村に逆らえない俺は仕方がなく最終手段を強行することにした。




「手伝ってくれるんじゃなかったんか?」


悲しげな表情を浮かべてそう聞けばやはり。
漣は仕方がないといった様子でため息をひとつついてから重々しく首を縦に振った。



『…仕方がない。行こう、テニスコート』

「さすが漣、恩に着る」


笑ってそう言えば、再び何とも言えない疑わしげな視線を飛ばしてくる幼なじみの頭をわしゃわしゃとなでつけてからテニスコートへと歩を進めた。
















(すまん漣。でもきっと楽しくなるぜよ)

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あきゅろす。
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