05
「飛鳥方」
『柳先輩。どうかしましたか?』
突然かけられた落ち着いた声は柳さんのもので。
いくら待っても来ない切原くんを探しにきたのか、などと適当な予測をして背の高い柳さんを見上げる。
「赤也を見なかったか?」
『あ、切原くんなら…』
あぁ、いけない。
つい本当のことを口走りそうになってしまった。
ここで本当のことを言えば、切原くんが真田さんに怒られるのは必至。
(いくらなんでもそれはちょっとかわいそうかな)
「どうした?」
『あ、いえ…、えっとですね』
とは言ってもなかなか気のきいた理由が出てこないもので。
「…正直に言ってくれてかまわないぞ。弦一郎には適当に理由をつけておこう」
さすが柳さん。
全てお見通し、か。
この人なら簡単に他言はしないだろうなと見切りをつけて、ありのままを話し出した。
『…切原くん、ここ何日か授業中に居眠りをしていたので教師に連れられて反省文を書きにいきました』
「…そうか」
なんとなく予想はしていたのだろう。
大して驚いた様子も見せずにうなずく柳さん。
「話は聞かせてもらったぞ」
と、不意に現れる第三者の影に少しばかり驚いてうしろを見やれば。
『…!真田先輩…』
「弦一郎、盗み聞きとは感心しないな」
「たまたま通りかかっただけだ。しかし赤也、たるんどるな。あとで説教をする必要がある」
…ごめんね切原くん。
いくら柳さんが口のかたい人だからって軽率にこんなこと言うんじゃなかった。
まさか真田さんが聞いてるとは思ってもみなかったから。
(ていうか何故こんなところにいるんですか真田さん。柳さんのストーカーですかあなた)
「ところで…。屋上で昼食を取るんだが、飛鳥方は来るか?」
俺の思考を遮ってそう聞くのは真田さんで。
もしやストーカーなのか?などとかなり失礼なことを考えていたため、顔があわせにくい。
『あ、いえ。俺は遠慮しておきます』
「そうか」
俺の言葉に簡素にうなずくと、身を翻して柳さんとともに屋上に向かって歩き出した。
(…よかった、殴られなくて)
さてと。
これから俺はどこに行くべきか―――――…。
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