07
「おーい飛鳥方、一緒に帰ろうぜ」
練習が終わった直後。
まだジャージから制服に着替え終わってすらいないそんな時にわざわざ俺に声をかけるなんて何事だ。というか誰だ。いや、まぁ声から察するにあきらかに切原くのそれだが。
しかしながら一緒に帰ろうというその言葉が俺にとって一番の問題であった。
『俺とですか?』
「そうだけど?」
当たり前だと言うようにうなずく切原くん。
またやっかいな展開になってきたな…。
『俺なんかと帰っても楽しくないと思いますけど』
「そんなことないぜぃ」
「げ、丸井先輩」
俺の肩に手を置き、突然会話に加わったのは丸井さん。
切原くんも驚いているみたいだった。
「一緒に帰ろうぜぃ飛鳥方」
『え…、でも…』
「そもそも、彼の家がどこにあるのかを聞いてからでないと一緒に帰れるかどうかもわからないぞ」
柳さんのもっともな意見に納得した様子のふたり。
先に口を開いたのは切原くんだった。
「それもそうっすね。家、どこなんだ?」
『…すみません。今日はこれから用事があるのでひとりで帰ってもいいですか?』
「そんなの付き合うぜぃ?」
『……、』
これ以上理由をつけるのはあまりに不自然かと思い、口をつぐむしかできない俺。
(どうしよう…)
「…ひとりで済ませたい用事だってある。そうだろう?飛鳥方」
『あ…、はい』
窮地から俺を救ってくれたのは、また柳さんで。
「あきらめろ。丸井、赤也」
「ちぇー、まぁしょうがないか」
「そっすね」
先輩の言葉に納得してくれたらしいふたりはおとなしくあきらめてくれたようだ。
その様子に内心胸をなでおろした。
(柳さん、恩に着ます!)
『すみません。また機会があれば誘ってください』
「おうよ!」
「それでは、私たちは帰りましょうか」
「そうだね」
それまで黙っていた柳生さんが機会を伺っていたかのように口を開く。
それに笑顔でうなずく幸村さん。
「それじゃあ飛鳥方くん、また明日ね」
『はい、また明日』
幸村さんにそう言われ、俺も笑顔で返事をした。
――――――
「漣、大変だったな」
帰り際。
不意にかけられた声。
それとともに頭に置かれた大きな手。
『あ…。仁王、くん…』
「大丈夫か?」
『うん、ちょっと疲れたけど…』
「そうか」
そう言うと、頭に置いた手をわしゃわしゃと動かす。
『ていうか、仁王くんテニス部だったんだね』
「あぁ、そうじゃよ」
『すごいびっくりした』
「そうか」
『うん』
その声も言葉も頭をなでる行為も。
いつもと変わらない仁王くんに安心感を覚える。
「…じゃあまた明日な。気をつけて帰るんじゃよ」
『うん、明日。じゃあね』
もう少しだけ一緒にいたいなんて、自分勝手な考えを必死に抑えながら笑顔でさよなら。
「…それと、」
歩き出そうと一歩前に進めた足を止めて仁王くんを振り返る。
「仁王先輩、じゃろ?」
『…あ』
からかうようにニヤリと笑ってそう言う仁王くんに対して、俺は何ともいえない間抜け顔。
「気をつけて帰りんしゃい」
(今日は色々と疲れたけど、たまにはこういうのも悪くないかもしれない)
step.02
-Unique in the activities-
個性的な人たち
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