星屑の煌めき
(銀魂/銀時)斯くも脆き愚かな可能性
斯くも儚き生命の流れにて→斯くも尊き流星のさざめき→斯くも猛き女神の微笑み→斯くも弱き心情の発露・続
「……結局あれから一年経つのか。すっかり馴染んでしまった……。もう、このまま、ここで、ずっと………………いや、無理か……引き際ぐらい、分かるし……」
「む。佳唯、いい所に! これ副長に渡しといてくれるか?」
「うぃっす、了解しました。あ、原田さん」
「なんだ」
「原田さん甘いもの平気な人ですか?」
「はあ? まあ、普通に食える部類だが」
「そっか、なら良かったらコレ、貰ってくれませんか? 俺が作ったんですけど、味はなかなかに自信ありますよ」
「おぉ、すまんな佳唯、有り難く頂くわ」
「いえー、じゃあ俺、副長に渡してきますねー」
◇ ◇ ◇
「なかなかどーして、隊内で佳唯モテモテらしいじゃねーかィ。良かったなァ、ザビ子」
「え、それわたし喜ぶべきなの? 喜んでいいの? ていうかなんか、おかしくね?」
「ザビ子が来てからというもの、飯は充実してるし屯所内は綺麗だし洗濯物は臭くないし、良い事尽くしだからなァ。
おやつも充実してるし……お前、わりと男にモテるんだな、びっくりしたぜィ」
「え、ぇ、それ普通に素直に喜べないよ? 普通にショックだよ? ザビ子の時はモテなくてなんで男装したらモテるの?
わたしはそっちのキラーなの? ていうか、ここの人達そっちの人なの?」
「なんつーか、おめぇが無自覚に出してんだよなァ、オンナを。
正直ここまで色めきたつとは思ってなかったぜィ、隙のない男装だったが、油断するとザビ子が出てるんでさァ。
それでよく、アイドルやってたもんでぃ。わりとずっと見てるとバレるようなもんなのに」
「うえええ、マジでか。女らしさ出てたのか……ていうか、わたし女らしさ持ち合わせてたのか初耳。
だってなーアイドル活動してる時は女の子相手だったから始終スイッチ入ってたっつーか、幻想壊したらアカンて思ってたっつーか……。
────あ。話変わるけど沖田くん、甘いもの平気な人?」
「甘いもの? 食えなくねェよ?」
「そう、じゃあハイこれ、あげる。食堂に置いとくお茶請けとして作ってたんだ、試作品だけど、味の感想聞かして?」
「…………こう、なんていうか、そういうのが男らしくないってんでィ」
「うえええ、マジでかマジでか。気をつけよー。でも隊士のみんなからわりと好評得てるよわたしのお菓子」
「あぐあぐ……っうまい。意外だ、お前、料理した事なかったのにどういう訳でェ」
「ん? そりゃしょっちゅうお菓子作ってたからだよ、料理はやろうとしなかったけど、お菓子作りは好評だったから、ずっと作ってた」
「誰から好評だったんでィ?」
「そりゃあ────────っ、そ……れは………………沖田くん、マフィン好き?」
「────人並みに」
「そうか。じゃあ今日はマフィン焼くかなー」
◇ ◇ ◇
「万事屋の旦那、ちょうど良いタイミングでノコノコ現れたモンでさァ」
「現れたっていうか、町中普通に歩いてたら後ろから急に首根っこ掴んで引きずられたの間違いだろ。
────なんだよ沖田くん、俺になんの用があるって?」
「旦那んトコに奉公してたザビ子、出てってもう一年経ちますねェ」
「……」
「あー、この情報はとあるツテから仕入れやした。詳しくは言えやせんぜ?」
「けっ、個人情報保護法ってのを知らねーのかねぇこの町のお巡りさんは」
「個人を守る為にソイツの情報を洗うンなら仕方のねー事ですぜ? それで、旦那の方はザビ子を探してないんですかィ?」
「探してる、っても普通に聞き込みしたり目撃情報頼ってるだけだな。お前らと違って俺達は法律守るんだよ」
「へーへー、そいつぁ失礼しやした。ご立派な町民であらせられるぜィ。
聞くところによると、チャイナも眼鏡も意気消沈してる様子から察するに、まだ有益な情報は得られてねぇようですね?」
「神楽はなんか知ってる風なんだがな、本人は知らねぇって言いやがる……新八は新八で……まあ、探してんだろな」
「ところで、ザビ子が出て行った理由って、俺が聞いても構わねぇですかィ?」
「────」
「ま、あらかた察しはつきやすぜ? 『ザビ子が働いて稼いだ生活費をまるっとそのままギャンブルに回した』ってトコですかねェ?」
「本気で個人情報保護法って奴を疑い始めたぞって俺ァ……別にそのまままるっとギャンブルにスッた訳じゃねーよ。
ちゃんと今までだって家賃としてババアに渡してきてるし、ギャンブルの金は長谷川さんか俺の金だしよ」
「……と言うと?」
「…………ザビ子が出て行ったあの日、ザビ子の誕生日だったんだよ、そんでちったぁ日頃の感謝っつーか、あれだ、労いのアレでもアレすっかなって思ってよ……。
俺が稼いだ金だとちぃとばかし足りなくて、少ーし気持ち的に少ーしザビ子からもらった生活費から借りて、色々買ったんだけどよぉ……」
「はっはぁ、男の矜持が邪魔して素直に言えなくて嘘ついたら大事になったって訳ですかィ」
「話を最後まで聞かねぇザビ子が全面的に悪いだろコレは」
「痛み分けですね。ところで万事屋の旦那、ザビ子は料理が苦手なの知ってやすか?」
「苦手っていうか、あんまりやりたくないっつーのは言ってたな」
「でも製菓作りは得意で好評なんでさァ」
「んおぉ、確かに菓子作りはしょっちゅうやってたな、美味いし」
「今もそんな調子でさァ、無意識的に時間が余ると菓子を大量生産するもんで、こっちまで成人病になっちまいそうでさァ」
「その言い方だと、まるでザビ子がそっちに居るみてぇだな沖田くん」
「その様に言ったんすけどねェ?」
「……それはまた、随分と世話になったな」
「一年も気付かずに良くもいれたモンでさァ。俺が何回ヒント与えたと思ってんです?」
「……そっちに行く筈ないって思い込んでた俺の落ち度ではあるが……問題も起こさず良くも居れたな、ザビ子」
「まー、軽ゥく問題には上がっちゃいますが立場が立場なんで問題を起こそうって奴ァ居なかったの間違いですぜ旦那」
「そうか。じゃあな沖田くん、ザビ子によろしく伝えてくれや」
「待って下せぇ旦那。ちょいと寄り道していきせんか?」
「寄り道────……?」
◇ ◇ ◇
「────マフィン焼きあがったのに達成感わいて来んわ。なんじゃ胸騒ぎもしとうし…… 」
「おいザビ子」
「ぅお!? ぉ、沖田くん、帰ってたのか……おかえり……それと、名前を呼ぶならザビ子じゃなくて佳唯にしてくんない?
沖田くんがそっちの名で呼ぶからわたし、スイッチの切り替え下手になってんだよー、沖田くんの所為だよー」
「表にお前の客が来てる、来い」
「……あれ、沖田くんなんかおこ? 見廻りでなんかあっ」
「早く来い」
「うぃっす、了解しましたー!!!! ……なんだよなんだよー問答無用かよー俺なんかしたかよー、怖ぇよー怖えよー瞳孔かっ開くのは副長だけにしてくれよー……ていうか、俺に客って誰だろ。甘損? なんも頼んでないしなー……。
────俺になんか御よぅ………………………………っぶねぇ」
「なにしてんでェザビ子、逃げるなよ」
「……おい沖田くん、テメェなんで銀時がここに居るんだよ……!!
……どう考えても沖田くんが連れてきたのは火を見るより明らかだよな、なに考えてんだよテメェコノヤロー……!!」
「……分かってるなら話は早え。旦那にお前の所在ゲロったのは俺でさァ。
とっとと旦那と話し合えって言ってるんでィ……」
「……話しあうもクソもわたしはアレと話したくないんだけど? なんで沖田くんゲロったの? ナニソレ、イミワカンナイ……!!」
「……佳唯ちゃん可愛いかきくけこー。ザビ子、お前、旦那とちゃんと話ししてみろ、あの日、旦那が言えなかった事聞いてやれィ……」
「……お、きた、くん。………………君に、そこまで言われたら……わたしは君に助けられた身だから逆らわんよ……はぁー、腹括るしかないのかよー。やだー、でも沖田くんがそういうんだ、行くよーザビ子ちゃん超聞き分けいい子ー。…………よし。
────────……ぎ ん と き」
「うぉお、マジにザビ子ここに居たのか、つーか前に会った失礼な坊主お前だったのか」
「開口一番それかー、すげぇ、一年経ってもお前はお前な。で、なんの用なんだよ」
「……あの……俺が悪かったよ、だから、うちに帰って来い」
「いやそれ完全にお前自分が悪いって思ってないじゃん嫌々謝ってるじゃんけよ。いいよぉ、ザビ子分かるのよぉ心籠ってない謝罪は要らんよぉ?」
「ちげぇよ!! 心の底から誠心誠意五体投地で俺が悪かったって思ってらァ、つーか俺の話聞いてくんねぇ?
お前から貰ってる生活費、ちゃんとババアに家賃として渡してるしパチンコでスッてもねぇんだよ」
「はぁ、そうですか」
「信じてねぇな!? もしかして信用されてないな俺!?」
「今までが今までなんだもん。今更信用も糞もないわ、お前の罪を数えろ」
「ぐぅ……っだー、もうおめーなんでそう強情なんだか、ちったぁ家主を信頼しろ!!」
「えぇー、だって銀時信じてよかった事なんて2回しかないよ……」
「少なっ、なんか妙にリアルだし、お前は俺をもう少し信じろよ」
「信用ない事が信用の証と思えよ。
────わたし、万事屋に帰るつもりないからそのつもりで。神楽にも言っといたし、ザビ子は死んだものと思えって」
「っ……!! …………ザビ子、今日、何の日か知ってっか?」
「うぇ? 今日? …………んー、かれこれわたしがココでお世話になって一年だけど?」
「そうだけど、もっと違う事あるだろ、分かれよ普通に」
「……………………ん? あ、今日、わたしの誕生日か。んん、て事はお前、わたしの誕生日に大金スッたのかよ、最悪じゃろ」
「だから、スッてねぇって言ってんだろ。ババアに聞きゃ一発だが今は居ねぇから無理か、糞、タイミングわりぃな。
アレだ!! お前の誕生日だから、日頃世話かけてるついでの詫びの印って訳じゃねーけど、コレ、お前にやろうと思って……」
「…………え。やだ、なにこれ。え、こわい。なにその小箱……やだ、なにそれ」
「おらよ、受け取れ」
「おっとと!! いや投げるなよ、普通投げて寄越すかこういうの!? 浪漫も情緒も糞もへったくれもねぇな!!
……ナイスキャッチしたわたし褒めておこう。中身は、うわ、案の定指輪かよ、やだーなにこれーこわいー」
「普通指輪貰ったらソレらしい反応する筈だろ普通は、なんだお前それ、もちょっと戸惑い噎び戦慄けよ」
「戦慄いたらアカンがね。恐怖とか怒りとかそんなんだからねその単語の意味。
むしろ驚嘆するわ、だって投げて寄越すか普通、寄越さねーよ普通。
でも、まあ、銀時がこういうの買ってる姿想像するだけで笑けてくる、それに免じて、少しだけお前を許せそうだよ」
「そうか。少しだけか。全面的に許してもいいと思うんだけどよぉ」
「訳ねーだろ。女の子が憧れるモノを投げて寄越すあたり許せんわ。そこが減点だなぁ、それさえなければ帰ってやっても良かったのに」
「ちょ、悪かったって……テイク2撮り直すんでもっかいソレ返してみ」
「テイク2撮り直すってどういう意味なのか良く分からんけど、おらよ、じゃあな銀時、お前はお前で達者で暮らせ」
「え、ここまで引っ張っておいてお前帰って来ねーのかよ!?」
「だって屯所は働いたらその分ちゃんとお給料くれるんだもん」
「それに関してはなんも言えねぇわ。え、待ってくれ待ってくれマジでお前帰って来ねぇの?
沖田くんがお膳立てしてくれたのに帰って来ねぇの? こんだけ話引っ張っておいてダメなの?」
「そのうち帰るよ、そのうちー」
「マジで帰らないエンドで完結にする気かよーーーー!!!!」
素直に帰りはしないよこの際。
「えー、帰れよオメェよォ。俺が折角ここまでやったっつーのに」
「沖田くん、なにをするにもまず近藤さんに言わなきゃでしょー。辞職願とか、書かなきゃだしね」
「その辺めんどいからもう帰っていいっつーのに、律儀でさァ」
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