星屑の煌めき




(婆裟羅/お市)出口なき迷宮




「あー、今日も豊臣は荒れ狂ってるなァ〜ん。
三成ミツナリサッマは相も変わらず“家康殺す”以外仰らないし、刑部ギョーブ殿はなに考えてるか分かんないしィ。
────ん? 織田残党討伐組が帰ってきたのかな、あれは。
刑部殿と……ありゃりゃ、三成サッマも向かわれたのかぁ〜」




◇ ◇ ◇





「三成、此れの躾はわれに任せよ、ヒヒ……」

「何度も言わせるな刑部、ソレはお前に任す。くれぐれも私の視界に入れてくれるなよ」

「あい分かった……三成、全てをわれに委ねよ、きっと巧く征く……ヒッヒ」

「ふん────おい、そこの女。これに適当な部屋を当て行ってやれ、丁重にもてなしてやれよ」

「御衣に────直ちに。
いやいやいや……いい加減わたしの名前ぐらい覚えてくれても良いんじゃね、何年近衛このえってると思ってんスかねぇ……全くもう。
はいはぁいそこなお嬢さん、大丈夫ですかね、お一人で歩け────────・・・・・・!!??」

「…………?」

「やはり────お市様ッ、わたしですザビ子です、覚えておいでですか!?」

「……ザビ子……ザビ子? 貴女だぁれ?」

「そんな、お市様……記憶が……っ刑部殿、暫しわたしにお市様と話す時間を下さい」

「貴様、それはならぬぞ。ソレは次の戦に欠かせぬ駒だ、貴様の下らぬ私用に使う道具ではない」

「まあ少し位よいではないか三成、これはコマ、考える能力など備わってはないだろう。
構わぬぞザビ子、好きなだけその憐れな人形と飯事ままごと遊びを興じるがよい」

「光栄です刑部殿────────いつか地獄に堕ちろ。
……お市様、こちらへ来て下さい。暫しザビ子めと話を致しましょう」

「────うん、うん」





◇ ◇ ◇






「お市様。貴女様は覚えてらっしゃらないと思われますが敢えて言わせて頂きます。
御久し振りに御座いますお市様、お変わりないようでザビ子は安心致しました」

「お久しゅう、お久しゅうございます……お久しゅうございます、ザビ子」

「……お市様。お労しや、織田残党にまさか貴女様がいらっしゃるだなんて。
お気を確かにお市様、貴女様は大五天魔王なんかではありません、貴女様は織田家が末裔に御座います……織田の、生き残りです」

「そう、市、よく分からないの……ザビ子、ザビ子? ザビ子、貴女だぁれ?」

「……ザビ子めは貴女様の下女げじょで御座います。幼少の頃よりお市様のお世話をさせて頂いている者です。
昔話は、もう止めましょうか……貴女は記憶を亡くしてしまわれたのですから、これでは独り言と大差ありません」

「昔話? 聞かせてザビ子、貴女の声は心地好いの……」

「そうですか。ならば、狸さんと狐さんのお話でもお聞かせ致しまょう。
────────昔々、ある所に狸さんと狐さんが猿さんの元で皆仲良く暮らしていました。
 平和で安寧の日々、ぬるま湯の様な日々は続きます。
 ところがある日、猿さんが死んでしまいました。
 狐さんは大変悲しみました、狐さんは猿さんにお世話になっていて多大なる恩義があったのです。
 ところが、狸さんは今が好機と見るや、猿さんと狐さんの住んでいるお家を壊してしまいました。
 狐さんは大変怒りました、だって、狸さんも狐さん同様猿さんに恩義があった筈だからです。
にも関わらず、狸さんは狐さんを、そのお家から、追い出してしまいました」

「……非道い、そんな酷い事、なんで狸さんは出来たの?」

「狸さんには野望ユ メがあったのです。
己れの欲望を叶える為に猿さんを見殺し……いいえ、若しかしたら、その手にかけたのかも知りません……。
 狐さんは誓いました。猿さんの仇は必ず討つと……狐さんと狸さんの長い永い戦いの、始まりのお話でした」

「狸さんは酷いのね…………狸さんなんて────死んでしまえば、いいんだわ」

「そうですね。正直わたしもそう思うんですよ。
けれどお市様、忘れないで下さい────『人を殺す』という事象は、『自分も殺す』という意味だという事実を忘れちゃいけません。
確かに狐さんは狸さんを殺してやりたい程憎んでます、けど狐さんは狸さんを殺したら、きっと……壊れてしまう」

「壊れる? どうして?」

「狐さんの裡に今あるのは狸さんへの憎しみだけです、ソレが満たされた今はまだ良い。
けど、ソレが達成してしまったら、狸さんを殺した狐さんは、壊れるのです」

「そう、市、ザビ子のいう事よく分からないの……憎いなら殺してしまえばいいのよ……。
だって、そうすれば     が喜んでくれたもの」

「壊れてしまうんですお市様。人は儚く脆い生き物だ。
大切なモノを失った虚無感はその人を壊してしまう…………きっと、狐さんはソレに永遠に気付かない……」

「気付かない? 狐さんはなにに気付かないの?」

「……石田三成狐 さ んは気付かないのかもしれない。徳川家康狸 さ んを殺せば自らも殺すという事実に。
憎めば憎む程、憎悪が強ければ強い程、悲願ソ レを達成した後にくる虚脱感は大きい。
狐さんが生きてく上で最早狸さんへの憎しみは、狐さんというモノを構成する一部になってしまっている。
……要約しますと、誰かを憎むのはとても虚しい事って話です」

「そう……ザビ子のお話は、難しくて良く分からないの……狐さんは、なんで壊れるの?
市も────────壊れてしまったのね……?」

「……畏怖や尊敬、愛情の類はいとも容易く憎しみへと変換されてしまう。
そんな経験、お市様にも有りますでしょう────今はそれを忘れてしまった事さえ忘れている様子ですが」

「そう…………市も、壊れているのね……ふふ」

「大丈夫です、お市様の事はこのわたしが御守り致します……。
こんな穢れた戦に、貴女を巻き込みたくなかった……運命は残酷です。
こんな状態になってしまった貴女様ですら、戦場に駆り出すだなんて……無常すぎます!」

「……? どうして泣いているの、ザビ子、泣いたら駄目よ? 泣いていたら    様に怒られるわ…………泣いちゃ駄目よ」

「……はい────お市様、貴女の事はこのザビ子が命にかえても御守り致します。
     様が御守り出来なかった分、わたしが支えます……わたしが守れなかった    様の分もわたしが貴女を守る。
わたしが貴女を守る鉾となる、
わたしが貴女を護る楯になる」

「泣かないでザビ子……ザビ子が泣くと、市も悲しいわ……ザビ子が泣くと、市が    怒られるわ    様に   な  泣  て   怒ら     の」


「……はい────ならばお市様、笑って下さい、このザビ子の分まで。
貴女の笑顔にわたしは救われ、生きる意味を見い出せるのです。
笑っていて下さい、笑って下さい、微笑みを絶やさず、誰も憎まず、健やかに生きて下さいまし……」














































もとより出口なぞ創られていない。


終わりは世界に訪れる。
終わりの見えない混沌。
終焉は、等しく訪れる。
始まりは、いつぞやの。
縁にて結ばれた光と闇。
今生でも混ざりあえぬ。













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