星屑の煌めき
(無双/三成)天下分け目の大合戦
「あちゃ〜……これは完全に西軍が不利とみましたよ」
「…………言われずとも、分かっている」
「三成さま、そう落胆ならさないで下さい。これも偏に三成さまご自身が蒔いた種に御座います、日頃の行いを────……」
「おぉっと手が滑った、滑ってお嬢さんのそのお喋りな口を封じてしまった」
「……左近」
「うぅー、むんーーー、むんんんんん!?」
「ん? なにを言ってるのか分からないですねぇ、殿?」
「左近、放してやれ。ザビ子の顔色が面白い事になっている」
「おっと。これは失敬……大丈夫ですかなザビ子嬢?」
「っぷはァ…………いやいや、死にますよ左近殿、普通に死んでしまいますよ左近殿。
人間鼻と口を封じられては呼吸が出来ないですよ、わたし危うく死ぬトコでしたよ?」
「あはは、そりゃ悪い事をしましたな。まあ『口は災いのもと』ですな」
「…………」
「────三成さま、らしくないですよ。
わたしのおふざけには烈火の如く怒ってらしたのに、俯くだなんて、らしくないです」
「…………らしくない、だと……ならばザビ子、『俺らしい』とはどのような俺なのだ。
お前に俺のなにが分かるというのだ、他人のお前に俺の事など分かりはしないだろう」
「お、それでこそ三成さまって感じですよ。なによりも弁の立つお方ですからねぇ、そう思いません事左近殿?」
「その通りですよザビ子嬢、我が殿は戦前にそんな暗い面持ちで佇む様な方じゃない。
そんな総大将ともあろう御方が自らの軍の士気を下げる様な事をする人じゃない」
「そう────仮令、かつての友に裏切られたぐらいで、こんなあからさまに落ち込み、項垂れ、絶望に打ち拉しがれる情けない御姿を、本陣で晒す筈がありません」
「……ザビ子嬢、それはちょっと」
「いいえ。決して言い過ぎなんかでは御座いません、わたしは真実を述べるだけです。
“総大将”という肩書きはそう簡単に名乗れるものなんかでは御座いません。
周囲の人間から絶大な信頼を得なければ、容易く名乗れるお役目では御座いません。
三成さま。俯かないで下さい、どうかその曇りのない瞳で前を御覧下さい。俯いていては見えるものも見えません。
三成さま。前を見ていて下さい、そこに貴方様を信じ、貴方様の信念に共感をし、貴方様の信念を、自分の信念の様に考える従者達がいる事を、どうかお忘れなきよう」
「ザビ子…………だが……俺は、アイツ等を失うのが、怖いんだ。
アイツ等との関係が壊れてしまった今、俺の大切なものが、守るものが、違ってしまったアイツ等との戦が、怖い……」
「殿。この戦は、大切なものを守り、そして取り返す戦じゃないんですかっ!?」
「左近…………然し、一度壊れてしまったものは、もう二度と────────戻れない」
「……清正殿、正則殿……この方々は容易く討ち破れる壁ではないことを貴方様が一番良くご存知の筈、三成さま。
そして同時に、刑部さま、山城守さま、真田さまという強固な壁が貴方様を守ろうと聳え立っているという事実を、忘れないでください」
「…………ザビ子」
「そうですぜ殿。俺は『石田三成』という一人の人間を守る為に殿に着いてきたんですよ。
紙に描いた画餅────叶えてみせましょう?」
「……左近」
「さあ三成さま。今こそ士気を高める時に御座いますよ?
貴方様の今のお気持ちを、そのままぶつけて下さい────────!!」
「────ああ。俺は、必ずこの戦に勝つ……勝って鬨を上げる、そしてこの日ノ本に安寧をもたらす!!
皆のもの、出陣だ!! この戦、我らに敗北はない────!!!!」
『オオォォオォオオォオォォオオオ────────!!!!』
「それでこそ、って奴だな。やっといつもの殿に戻られた、俺も気を引き締めて行かなきゃいけないねぇ。
なあ、そうだろう、ザビ子嬢?」
「……ああ、三成が元に戻って良かった……あの方にここで斃られては困りようだからな。予もそなたも苦労をする」
「おっと…貴女もいつ素に戻ったんですかぃザビ子嬢────いや。甲斐の虎の御落胤であらせられる、ザビ子御前……か?」
「ふん……そなたも随分と懐かしい名で予を称するのぉ、左近。
その忌々しくも恭しい名で呼ばれたのは久しい、予をそう称するのは……今となれば、左近、そなただけになってしまった」
「はははっ、それはとても光栄ですね……御前をそうお呼びするのは俺だけって事ですからね。
俺だけが知ってる、ザビ子嬢の呼び名だ」
「そなたも大概酔狂な男だな、粋狂な奴は嫌いではない。
だが粋狂だけで三成に汲みする訳でもあるまい。
あの方は恵まれているのか、否か……前者か後者か、そなたはどう思う」
「そーですね……俺としちゃ、前者、ですかね? 敵にも味方にも殿は恵まれています。
こうも強大な敵がいなければ殿はこうも大きくはなれなかったでしょう」
「そなたは寛容よな左近。予はそう考え至る事はついぞ叶わなかった……父上が生きておられたなら、この様な腑甲斐ない予を叱咤するだろうか」
「いいえザビ子御前。貴女は腑甲斐ない筈がない、こんな窮地に至ってしまった豊臣に味方するなんて、正気の沙汰じゃないですぜ」
「正気の沙汰とは、そなたももう少し言葉を選ぶがよい。
その様な物言い、予を貶めている様にしか聞こえぬ。
……まあ、そなたもあの方に仕える人間として相応しき人材という事であろうが……」
「そういう事ですな。さ、俺達も殿に檄を飛ばしに行きますかぃ────!!」
「ああ、そうするか。どこぞの我らが殿は自信家の癖に落ち込み易くていけぬな。
────さあさ三成さま、勝って豊臣の世を、見せつけましょう!!」
「嗚呼、俺は必ず────勝ってみせる」
「勿論ですよ。三成さまは必ず勝ちます、なにせわたし達がいるんですから。
それに、壊れたなら直せば良いのです。
────────予は最初から貴公の味方である。
貴公にだけお仕えし、貴公の為だけに生き、そして死ぬと誓った。
予は貴公だけの味方なのだ。
予は何があろうと貴公に従い、貴公を心から信じ、どこまでも着いていくと、魂に誓ったのだ────」
「────────っ……ザビ子?」
「さあ、頑張りましょー?」
「…………ふん。頑張るという言葉は人を追い詰めるぞ」
『鬨は未だあがらず』
『治部少輔は罪人として処刑』
「そん、な────三成……予が、ついて、いながら……貴公を失う……ッなんて、ィャ……嘘、だ、三成、三成…………ああぁ亜噫ァァァァァアアァァァ嗚ァァ呼ァァアァァァァァ────────……っ!!」
「ザビ子御前、そう落胆めさ……」
「予に触れるな徳川ァァァァァァ!!!! 殺す、予があの方の代わりに貴様を殺してやる────……!!!!」
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