星屑の煌めき
(Fate/士郎)絶望の華の色
「士郎。あんた最近ザビ子とちゃんと過ごしてる?」
「────────は?」
「は? じゃないっての! あんた最近セイバーとばっかいるみたいじゃない、仮にもあんたとザビ子は恋人同士でしょう、ならもうちょい二人だけの時間を作って過ごしなさい!」
「あち、熱いって遠坂!? 熱々に煮え滾る湯を俺に向かってかけるな! 火傷したらどーしてくれんだ!」
「んなの治してやるわよ。補助系魔術だってマスターしたこのわたしに不可能は無いのよ?
そんな事より! あんた、ザビ子に構ってあげなさい」
「ええ〜……? つぅか遠坂、なんでお前がそんなに躍起になってんだ……?
今は聖杯戦争中だから常に気を引き締めておけって言ったのはお前だぞ、遠坂」
「あの子────ザビ子、独りで時々泣いてるのよ。
夜になると時々部屋を出ているのは知っていたんだけど、まさか泣いてるなんて思わなくて……」
「…………そんな…ザビ子、1人で泣いてるのか……?」
「だからそうだって言ってるじゃない。あーもーこのトウヘンボクが、ガンドの嵐をお見舞いしてやろうかしら!?」
「それだけは普通に勘弁。
────ん? 待て、なんで遠坂はザビ子が部屋から抜け出してるのを知ってたんだ?」
「え!? え〜とそれはそうねあれで……あははは〜」
「…………まさか。遠坂、お前」
「いやいや。わたし、なにもしてないわよ」
「ウチに使い魔か結界かなんかしてんだろ」
「し、失礼ねっ!! 庭先にしか結界張ってないわよ!」
「…………。で、ザビ子が泣いてるのを発見した遠坂さんはなにをしたんですか」
「近づくのもあれかなって思ってさ、そのまま放置。
部外者が立ち入るのもアレじゃない、だからこの場は一応あの子の彼氏である衛宮君に譲ってあげてるワケ。
夕飯の後、あの子の部屋にいきなさい。んで、なんで泣いてるのか理由を問いただすコト。オーバー?」
「オーバー。部外者といいつつ一番楽しんでるだろお前、ザビ子の事になると怖いよな、遠坂」
「うっさい。あの子はわたしの大事な親友なのよ、なにかあってみなさい、タダじゃおかないんだから」
「肝に銘じます!」
◇ ◇ ◇
「御馳走様でした。今晩の夕餉も素晴らしい味付けでした、ザビ子」
「ほんとっ? 有り難うセイバーさん、そう言って貰えると張り切って作った甲斐があったって思うよ!」
「ご馳走さま。厚焼き卵に隠し味の醤油を入れすぎた以外は上出来よ」
「と、遠坂さん……うぅ、相変わらず厳しいな……でも、他は美味しかったって事だし、有り難う」
「ザビ子。今日の食器当番替わるから先に風呂入れ、今ならなんと一番風呂だぞ?」
「え……そんな良いよ衛宮くん、私が洗うから衛宮くんが入ってきて! 家主より先に入るなんて烏滸がましい事出来ないし……!」
「なに言ってんだばか、ザビ子もこの家の住人だろ、気負いしないで良いんだ。
そんなに気負うなら、そうだな……今日のあさりの炊き込みご飯が物凄く旨かったので、それのご褒美って事で、どうだ?」
「っ…………分かった、お先にお風呂頂きます……」
「ん。っとそうだ……セイバー、今夜の鍛練無しって出来ないか?」
「はい。構いません、シロウには他にやる事があるのですね」
「おい遠坂、お前セイバーに変な入れ知恵したろ!?」
「別に? 士郎はセイバーのマスターである前にザビ子の恋人なのよって教えただけだけど?」
「シロウ。恋人同士というのは同じ時間を共有するだけでも違う、一緒に居る事がなによりも得難いと思えるものです」
「ほら、先人の知恵も頂いた所で茶菓子とお茶を用意しておきなさい。
ザビ子がお風呂から上がったら直ぐに部屋に行きなさい」
◇ ◇ ◇
「────ザビ子、入っても平気か?」
「衛宮くん? 入って大丈夫だけど、どうしたの?」
「…………気分を害したらすまないが、この前偶然見たんだ……お前、時々夜に泣いてるだろ」
「────────あ〜……なんだ、バレちゃったかぁ……巧く隠し通せると思ったんだけど、やっぱ衛宮くんには通じないか」
「ザビ子、どうして泣いてんだ……」
「ねえ衛宮くん。衛宮くんは私に隠し事があるでしょ」
「────ぇ?」
「夜な夜な遠坂さんとセイバーさんと一緒に出歩いて街の巡回をしてる。
この前なんか、制服に穴が開いてた……然も血が付着してたし。
────────ねえ、私がなんにも知らないと思ってる?」
「それは…………悪い。隠すつもりはなかったんだ、ただ、お前を巻き込みたくなかっただけだ」
「だからって、私になにも言わないって可笑しいよ!
私には衛宮くんを心配する権利すらないの?
聖杯戦争なんて危ない戦いに衛宮くんは参加してるって、最初から気付いてたんだよ!?
この間なんか帰ってきた時、死に体だったし……アレ、確実に一回死んでたよ!? 衛宮くんがそんなにまでなって戦う理由なんて…………っ!!!!」
「ザビ子。お前なら、分かるだろう。
十年前と同じ悲劇がまたこの冬木に訪れようとしている……防ぐ事が出来る災害なら未然に防ぎたい。
その厄災によって罪のない人が傷つくのは嫌なんだ……十年前の悲劇は繰り返してはいけない」
「…………」
「俺が戦いに参加する事で少しでも助かる人がいるなら、俺は戦う。
ザビ子も、分かってくれ…………俺が、戦火に身を投じる事を」
「…………士郎のばか、そんな風に言われたら、私が我が侭言う重たい女みたいじゃない。
士郎は……もうホントに────馬鹿なんだから」
「……ごめんなザビ子。でも俺はやんなきゃならないんだ。
切嗣が出来なかった事なら、俺がやらなきゃ駄目だ……それが、俺が目指してる正義の味方だから」
「……分かったよ衛宮くん。私も……もう我が侭言わない。
……でも約束して。隠し事はしないで、嘘は吐かないで、危ないと思ったらすぐに逃げて……!」
「ああ……約束する」
「生きて、生きてこの家に帰ってきてね……必ず……」
「ああ、俺は必ず生きてお前の元に帰ってくるよ」
「……うん。死んだら私も死んであの世まで追い掛けるんだから……あの世に行って説教してやるからね」
「うわ、それは真面目に勘弁だな……死んだら安らかに眠りたいぞ、俺」
「それが嫌なら、ちゃあんと生きて帰ってくる事。いいね?」
「ん。俺の帰るトコはここ以外にないんだ、安心しろザビ子。
そのかわり、俺夜の間は家を空けるから、ザビ子がこの家を守ってくれるか?」
「────────任せて、衛宮くんの不在の間は私がこの家の主なんだから!」
「任したぞザビ子。お前だけが頼りだ。
────あ。悪いザビ子、俺この後新都に巡回に行かなきゃならないんだ……」
「……そっか。気を付けてね衛宮くん、遠坂さんかセイバーさんに浮気したら藤村先生に言いつけてやるんだからね?」
「その心配はないよ。俺はお前しか見えてないからな」
「うわクサッ。衛宮くんの将来が心配だわ私……」
彼の人が傷つく位なら、我が身を呈した方がマシだと、彼女は泣く泣く。
衛宮くんが無事でありますように。
毎晩毎夜、私はそう星に願う。
身を粉にして戦う彼の無事を願って、毎晩毎夜我が身を削る。
──彼の気高き剣にこそ 万能の杯を──
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