星屑の煌めき
(無双/佐和山)黄昏のままで
「あ゙っづい゙…………今年の夏は異常気象じゃねーのコレ、どーなってんの、どうなったらこうなるのコレ……」
「暑いのなら川へ涼みに行くが良い、ここで騒がれては俺に迷惑だ」
「三成サマ非道……普通こーゆー時はァ、黙ぁって冷たぁい飲み物を持ってくるのが普通じゃないですか?」
「…………」
「罵るのは良い、だがシカトは勘弁な!」
「罵られるのは良いんですかい、ザビ子さん……不思議な人というか、変な御仁だ……」
「あ、島さんだー、こんちはっ。今日はどんなお客さんを引き連れて来たんですか?」
「いや、今日は誰も呼んじゃいないです。
というかそれじゃあ、俺はそんなに毎日誰かを引き連れて来る風な言い方ですな」
「うん、私の中では島さんはそんなイメージが定着しちゃいましたよ。
だって実際そうだし……ここん所手帳に誰が来たかを書き留めていたのですよ、島さん」
「いめ……?」
「イメージ、イマジネーション、イマジン。
日本語に訳すと、んーそうだな……まあ、ある特定の単語を聞くとある限定的なモノが連想される、みたいな?」
「はぁ、成る程……」
「…………つまりアレですね。“黄色くて小さな生き物”といったら“ヒヨコ”、みたいな風です。
厳密にはまた違ってくるんですけどねぇ、うん、だから今の言葉は忘れてください」
「ほほう、こりゃ勉強になりますねぇ殿?」
「下らん。左近もこんな奴と駄弁っている暇があるのなら仕事をこなせ」
「御一喝ですよ島さん、最早これは三成サマの固有技ですね……あ、昨日は直江さんが来て下さったんだ、最早忘却の彼方〜!」
「ほう。きちんと書かれてますね、俺が想像したのとは違いますな」
「ちょ、島さん。島さんが想像した私の字ってどんな悪筆!?
む、三日前は幸村さんとくのいちちゃんが遊びに来たんだ」
「俺の想像じゃあ、そりゃもうミミズがのた打ち回ったかの様なモノを想像していたんですがね、ハハハ」
「島さんも言うときゃ言いますね、それでこそ三成サマの家臣だこんちくしょー。
おや。島さん、その右手に携えているのはなんすか?」
「お、流石目の付けどころが良いですねぇ。これはザビ子さんへの手土産ですよ。
最近滅法暑くなったモンでザビ子さんが干上がってたのを見ましてねぇ、城下で旨いって評判の水羊羹を買ってきましたよ。
これでも食べて元気出して下さい、ザビ子さん」
「わぉ、涼しげ! さっすが島さん、気の利いた差し入れを持ってきてくれるぅ!
有り難う御座います島さん、愛してるー!」
「────────」
「おっと、こりゃあ水羊羹で愛して頂けるとは、手軽な愛ですなぁ、殿?」
「何故俺に言う、そこの馬鹿にでも言えば良いだろう」
「ちょ、三成サマこそ島さんを見習ってこーんな気の利いたモノを贈って下さいませんかぁ」
「俺が? お前に? フン、下らない……俺が注意を払うべき対象は豊臣に讎成す者を探す事であって、お前の下らない欲求を満たす為に使うものじゃない。
分かったならここから立ち去れ、職務の妨げにしかならないお前が居たら支障を来す」
「やーだ三成サマったらお説教くっっど。まあ良いですけどねぇ〜。
じゃあ島さん、水羊羹持って舟涼みにでも行きませんか、私と島さんの二人だけで」
「ぇ、ええ、良いですけど…………殿、それで良いんですか」
「────良いも悪いもなにもない。行くならさっさと行け」
「だそうですよ島さん。今すぐ行くんで、支度とか大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫ですが、ザビ子さんこそ大丈夫ですか? 女性の身支度は長いでしょうに」
「私はこの身一つありゃ十二分ですので、じゃあ三成サマ、行って来ますねー。
お土産は期待しないで下さいね、それじゃー」
◇ ◇ ◇
「────しっかし……良くもまあ平常でいられますねザビ子さん。
好いた男にあそこまで言われたら普通堪えるでしょうに」
「はえ? ……あぁ、アレですか。別に私は気になんないんですけどねぇ、皆気にしィなんですよねぇ」
「剛い人だな、アンタ……」
「いやいや〜。……ん? つか、島さんいま……なんで私が三成サマの事好きだって知ってるんですか!?」
「いや、分からいでかってやつですよザビ子さん。第三者から見ても直ぐ分かりますよ」
「やだー、乙女の恥ずかし心情ー」
「ご安心を。この事を知ってるのは俺と前田の風来坊だけですよ」
「うんにゃあ、恐らくあの真田さん家の忍しゃんも知ってると思いますけどなぁ。あの娘も不憫な恋をしてるからね、なにやら通ずるものを感じた☆」
「これは、殿に言わなくても良いんですかい」
「…………言わなくて良い、というか、言っちゃダメです。
これは三成サマには、知らせなくて良い。
いいえ。むしろ、知らせたら────────幾ら島さんといえど、許さない」
「────ザビ子、さん?」
「私はね島さん。人が歩むべき道を踏み外すのが嫌なんです。
……ちゃんと敷かれた道筋を行かねば、それはその人を殺す行為に等しい。
これも他言無用で頼むけど、私はこれからの日ノ本がどうなるかを識ってるんだ。
誰がいつどこでどんな最期を遂げるか、全て識ってるんです。
本来なら、この時間に触れてこの時間の人間と関係を持ってはならない存在、異分子な私は誰とも干渉し合っては駄目だった……筈、なのに」
「信玄公に会い、全てが変わった……ってか?」
「そうですね。あ、あと謙信公も良い起爆材でした。
……お館様に拾われて、幸村さんとくのいちに出会って、直江さん、島さん、三成サマに知り合えた。
今までは人との繋がりなんて馬鹿らしい、疎ましいとさえ考えていたのに、今はこんなにも、満たされている……ホント、不思議です」
「良かったじゃあないですか、これでなんの気負いもなく人と関わって行けるんですよ?
信玄公に感謝しておきましょう、俺もアンタに出会えた事を感謝しているんですから」
「うわあ、島さん今のせりふクッサい!!!!
その手のせりふを真顔で言う奴は信用したらあきまへんてウチのママンが言ってたよぉ」
「ハハハ、そりゃ愉快だな」
「いや笑い事じゃな……いやァアァァアア鳥肌たってるゥウゥゥウウ!」
私の気持ちは、明ける事なく貴方を照らし続けるだろう。
「只今帰りましたよ三成サマ〜、はいこれお土産の蕎麦団子です」
「どこまで行ったんだ貴様ら!」
「いやぁ、ちょっと上田まで涼を求めて?」
「いや、まさか上田まで流されるとは思ってなかったんですよこれが」
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