・次兄の抗い
こいつは綺麗な顔立ちで世間様から好かれていた。
「琥珀くん、おはよう」
「菓子持ってけ、琥珀坊」
こいつの分け隔てない態度は、兄弟贔屓に見なくとも評判がよかった。
だが、今はどうだ?
“色”を持ちすぎてしまっただけで、なぜ死が付きまとわなければならない?
両親が変わってしまった弟の姿を目にしなかったことは、幸いだったのかもしれない。
キッカケを作った本人達は何も知らず、息すらもせず、ただ目の前に倒れているんだから。
***
ここ『ワノ国』のもの達は、髪と瞳の色に同系色をもつ。それ以外は、みんな異常なんだと。
理由はしらねえ。
だが『隣国という存在がない国の団結力を高めるために、身内に敵となる対象を作ったのかもしれない』…そう、兄貴は言っていた。
弟だって、透き通る黄色だけを持っていたはずだった。
***
徐々に空も暮れかけ、賑やかになっているだろう家族を想像している頃、家へと着いた。
(灯りがない…?)
親父とお袋の到着が遅れているのか
いや、琥珀は帰っているはずだ。暗闇が苦手なあいつが…、胸騒ぎがする。
急ぎ、玄関を、廊下を抜けると、部屋の前にひれ伏し切れ切れ嗚咽を洩らす弟がいた。
「どうしたっ、琥珀!?」
弟の目の前に何かがある、自然と部屋と弟を遮るような形で駆け寄った。
すると、流れてきた銅の臭いに振り向かずにはいられなかった。
開け放たれた扉の中。
そこには、射し込む夕日の赤とは別に、赤黒い世界があった。
久し振りに再会する二人の…亡骸とともに。
不思議と、動揺はあまり感じられなかった。
まるで“その光景”を知っていたかのように。
「…っ、はっ…ヒ、ハク兄っ…」
弟の声に反応して、視線を戻す。やっとのことで、顔をあげた琥珀に対して動揺してしまった。
涙の止まらない瞳には、なぜか俺と同じ“緋”を宿している。
それだけじゃねえ…、左目には“蒼”、バカ兄貴の色も混じってやがる。
だが、自分の変化にこいつは気付いていないようだった。
何がキッカケでこうなってしまうのか、見えないモノがより恐怖心を煽り、結果“異常=不吉”という意識は広く根付いている。
そして、更なる追い討ちは、あの圧倒的な存在。
――存在意義なきものはヤツラの裁きを受けるべし――
そんな馬鹿げた決まりに、逆らう奴も少ないがいる。
必死に、逃げて、逃げて、足掻く…。
しかし、国の処刑人――鷹――は、多色を見逃す事はただの一度も無いと聞いた。
どこへ逃げても必ず見つけ出し、職務をまっとうするらしい。
だが、俺が黙って琥珀を渡せるわけもない。
無くしてから後悔するのは馬鹿のすることだ。
大事な弟の命を奪う権利など、どこの誰にもあるわけがない。
散々、心の中で悪態をついても心拍数は下がらなかった。
兄貴の帰りは待てない、ぼろぼろ泣きじゃくる弟を宥める余裕もない。
目の前の惨状に何も感じなかったわけでもない。
ただ
“ニゲロニゲロニゲロ”
鼓動と同時に流れ込む三文字が、気持ち悪さだけを俺に与えていた。
[次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!